中国人の爆買いツアーはもう過去のものになり、地方の都市や日本らしい文化の体験を求める個人ツアーが人気だという。「爆買い」ならぬ「爆ツアー」で、新たなトラブルも起きている。沖縄・那覇空港に着く中国人観光客はこの3年で6倍、35万人になった。到着ロビーに手書きの札を持った若い中国人の姿があった。到着した中国人を確認すると車に乗せ走り去った。これがいま急増している違法ガイドだ。ネットで簡単に予約できる。
「クローズアップ現代+」の中国人スタッフが観光客を装って接触を試みた。現れた20代の中国人は自分で運転しながら案内をする。しかし、一方通行を逆に入ったり、道に迷ったりする。聞けば留学生上がりで、在学中からやっていたという。ガイドの資格(通訳案内士)もなく、白タク行為も違法だ。
雇われている会社の名前を聞き出し、電話をかけたが、「違います」と切られてしまった。これが、中国の旅行代理店の依頼を受けて、ホテル、バス、ガイドの手配をするランド・オペレーターだ。低価格を武器に、正規の旅行社やタクシー、バスの仕事を奪っている。今年(2016年)、初めて国の調査がおこなわれ、全国で864社とされたが、活動の実態はほとんどわからない。
ドタキャン続発でホテル・バス会社は大迷惑
トラブルの多くはバスやレストランのドタキャンだ。安さを求めて複数の会社に声をかけ、ギリギリまで交渉して安いところに決めるから、当然キャンセルが出る。それも前日だ。そうした悪質ガイドの情報を共有できれば自衛もできるが、体制がない。ランド・オペレーターの1人は「監督する組織がないから、白タク、不法民泊、やり放題。誰も税金を払ってない。美味しい利益だけ取る」とうそぶく。
立教大の高井典子教授は「日本の旅行業界は日本人のためのものだった。そこへアジアが入り込んできて、真空地帯にランド・オペレーターが登場したんです」と説明する。中国市場戦略研究所の徐向東・代表によると、中国人観光客はかつては6割がツアーで、4割が個人だった。そのツアーが「爆買い」だったのだが、それが逆転した。個人が求めるさまざまなニーズにはランド・オペレーターが必要だ。外国人旅行者は今年初めて2000万人を突破したが、2020年には倍の4000万人が見込まれる。「増えるうちの1400万人は中国人」と徐代表はいう。
これにどう対応するか。国の方針は、「通訳ガイドは無資格でも可能」「民泊は住宅街でもOK」「ビザの緩和」「悪質業者を監督できる法改正を検討」と、規制を緩める方向にある。徐代表は「シェアリング・エコノミーは世界的な流れ。その点では中国の方が進んでいます。日本人の日常生活を味わうのは大きな魅力です」と話すが、そこで生ずるのが生活習慣の違いからくる「摩擦」だ。すでに様々なことが起こっているが、ここで韓国の試みが注目されている。
韓国「観光警察隊」マナー・エチケット注意、国内悪質業者も摘発
ソウルの繁華街ミョンドンを制服姿で歩く一団がいた。タバコを吸っている中国人旅行者に近づいて、中国語で「ここは禁煙です」。もみ消した吸い殻も拾って、笑顔で別れる。「観光警察隊」というれっきとした警察官である。「ちゃんと説明すればわかる。安心できれば、また来てくれるでしょう」と話す。
3年前、外国人とのトラブル解消の切り札として、外国語のできる150人で組織された。普通の警察官とは少しちがう垢抜けた制服で繁華街をパトロールし、観光客のマナー・エチケット喚起だけでなく、これまでに悪質旅行業者やぼったくりタクシーなど7000件の不法を摘発した。
高井教授は「国の印象は出会った人で決まります。政府だけでなく、自治体、民間、個人が生活習慣の違いを教えていけば変わるはずです。日本を好きになって帰ってほしいですね」という。
外国人が街角で困った様子を見せた時、日本人がどんな反応をするかを確かめたテレビ番組があった。東京はまったくの知らん顔だが、大阪は違った。外国語のできんおっちゃんが、なんかかんか言って寄っていく。人も集まる。あのおせっかい、ほんまによかったなあ。一方で、わさびを盛ったアホもおったけどな。