八丈島の東から大東島まで南下した後、再び東日本にUターンした台風10号は30日(2016年8月)夕方、岩手県大船渡市に上陸し日本海に抜けた。東北地方に太平洋側から上陸したのは統計を取り始めた1951年以降初めてだ。台風7号、11号、9号も東北の沿岸を北上して、1週間の間に次々と北海道に上陸した。これも観測史上初めてである。
例年ならば、台風は赤道付近で発生して西日本に上陸する。太平洋高気圧が日本列島をすっぽり覆うため、これに押し除けられる形で東日本には近づけなかったからだ。ところが、今年は日本列島に近い海上で発生し、太平洋高気圧が弱いため西側からも高気圧が張り出し、三陸沖に台風の通り道ができてしまったことが影響している。これは一時的なものなのか。台風10号が日本列島に迫っていた29日(2016年8月)夜、「クローズアップ現代+」がレポートした。
これまでに経験したことない強大化
今年の台風は「暖かい海水」と「特殊な気圧配置」という地球規模の気候変動が関係していると、東京大学先端科学技術研究センターの中村尚教授は考えている。「ベースとしては、間違いなく水温が上がってきています。近い将来にまた観測されることは十分あり得るので、今までにないような強さの台風が接近することもあるでしょう」
今年の台風の大きな特徴は、離れた地域にも大雨が降ったことだ。これは上空5700メートルの冷たい風、いわゆる「寒冷渦」の影響で、台風と寒冷渦がぶつかって大雨になったと見られている。「経験が通用しない時代に入っていく。今までは来なかったものが少し範囲を広げてくるということです」と東京大学大気海洋研究所の木本昌秀教授は指摘する。
注目される「タイムライン」襲来24時間前までに対策完了
どう備えればいいのか。注目されているのは「タイムライン」という考え方だ。これまでのように危険な状態になってから対策をとるのではなく、起こりうる事態を予測し、「危険個所の点検」「避難所の開設」「避難指示の発表」などを早めに行おうというものだ。
2012年、アメリカ東海岸はハリケーン・サンディに襲われ、およそ4000棟が全半壊したが、行政が「タイムライン」を用意していたため、犠牲者を一人も出さなかった。
東京・北区も今年から「タイムライン」の運用を始めている。ただ、いざ実施するとなると難しい問題があることもわかってきた。北区危機管理室防災課の坂本大輔課長が高齢者などの避難について住民の代表に相談すると、「水害にあったとしても、避難所に行くより家の2階に行けばいいとなる。避難所開設を広報するとかえって不安をあおりかねない」と言われてしまった。
住民自らが独自のタイムラインを作って成功している地域もある。三重県紀宝町大里地区の住民は、今回の台風10号が接近する24時間前に避難時の備蓄を済ませていた。自主防災組織のリーダー・原章三さんの呼びかけに応じたものだ。この地域は5年前に紀伊半島を襲った豪雨で88人の死者・行方不明者を出していた。そのため、住民たちの理解も早かった。
伊藤敏恵キャスター「タイムラインというのはまだまだこれからの取り組みのようですが、成功のポイントは何でしょうか」
NHK社会部の島川英介記者はこう解説した。 「『空振りを恐れず』ということに尽きると思います。崩れたことがない山も崩れることはある。長期化する恐れもあると考えて、長めの備えをして避難することが重要になってくると思います」
ビレッジマン