キャッチコピーに「漫然と生きる男ではなく、一生懸命な男を演じたい」とあるが、漫然とこれまで生きてきた私にはキツイ一発だ。
マイケル・ダグラス、マーティン・スコセッシ、ジョン・ウー、ヤン・デ・ボン、山田洋次、梅宮辰夫、降旗康男などの名匠・名優が、また身近にいた人たちが「健さん」を語る。
撮影には毎朝遅刻
役者には2つのタイプがあると思う。役に成り切るタイプとどんな役でも自分に引きつけてしまうタイプ。高倉健は後者だ。つまり、何を演っても「高倉健」なのだ。山田洋次は「スターというものは限られたキャラクターしか演じることはできない。高倉はアウトローの役しかできない」と指摘している。
追悼番組で高倉のデビュー作から遺作までのハイライトを見たが、技術的には少しも進歩していないように私は感じた。高倉は己の「存在感」をひたすら深めていったのだと思う。
神格化され、この映画はその神格化を深めているのだが、意外な「ダメな部分」も紹介している。寝起きが悪くて、付き人がようやく起こして口の中に歯ブラシを突っ込んでも、そのまままた寝てしまう。そのため、撮影には毎朝遅刻。しかし、高倉が現場に笑顔を見せて入って来るとみな許してしまうのだった。
八名信夫によると、高倉は共演者、スタッフによく自分が入れたコーヒーをふるまった。ミルクも砂糖も入れないブラックコーヒーで、無理をして飲み干すと「どうだ、うまいだろう」とお代わりを注がれてしまうのだ。これには閉口したと苦笑いする。
「ゴジラ」にも出演予定だった
梅宮辰夫の証言では、高倉は本当は酒が飲めるのだそうだが、酔ってタクシーの運転手をボコボコにしたことあり、酔っぱらうと何をしてしまうか恐ろしいので飲まないのだという。また、娘の結婚式に送られた祝電の宛名が本名の「辰雄」になっていたことに感動したと話す。ちゃんとどこかで調べてきて書いたのだ。40年間付き人だった西村泰治の息子の結婚披露宴でスピーチをしている珍しいビデオがある。笑顔で「華やかな日は今日だけで、明日からは荒波の人生でしょう」と語っているが、内容は厳しい戒めであった。
高倉には「三島由紀夫」や「ゴジラ」に出演する予定もあったという秘話も明かされる。ラストではインタビューを受けた全員がリレー式に画面に向かって「健さん」と呼びかける。このように親しみを持って呼ばれるのは、他には「寅さん」しかいない。
佐竹大心
オススメ度☆