若い女性が強引に、あるいは言葉巧みにアダルトビデオへ出演させられる被害が相次いでいる。支援団体に寄せられた相談はおととし(2014年)は36件、昨年は62件に対して、今年(2016年)は7月23日の先週末の段階ですでに昨年と同数の62件に達しいている。「クローズアップ現代+」はこれまで「恥ずかしくて人前に出られない」として口を閉ざしていた被害女性から話を聞いた。
20代の明子さんは大学生の時に「モデルをやらないか」と声をかけられた。「1回、簡単に話を聞いてみればいいよと言うので、事務所と呼ばれるところに行ったんです。用意されていたのはプロフィールと書かれた用紙でした。自宅住所や大学名も書き込む欄があったのですが、読む時間も与えられなくて書き込んでしまった。後で見ると、それが契約書だったのです」
数日後、事務所社長から「AVへの出演が決まった」という電話があった。「出演できない」と断ると、「とりあえず事務所で話そう」ということになった。「そこで、『ふざけるな!』と。制作は決まった時点で始まっているんだから何百万円という違約金がかかる。お前が止めるというなら親に請求が行く。本当に何時間も怒鳴り散らされるように言われて、私も疲弊して、この空間から出るには私が『分かりました』と言うしかないかなと思いました」
2週間後、初めての撮影に持ち込まれた。「恥ずかしくて、カメラが回っている最中も、『もう止めてほしい』と繰り返しましたが、あまりに屈辱的で、精神が壊れたというか、放心状態になりました」
元プロダクション経営者「考えるヒマ与えず30分以内に契約書にサインさせる」
もう一人の証言者・まゆみさんは契約書にサインはさせられたものの、AVへの出演は拒み続けていた。すると、会社が主催するクリスマス・パーティーに誘われた。「そこでAVで活躍する女優さんたちが次々と話しかけてきたんです。女優さんたちと交流したことによって、危ない、怖い世界じゃないと感じるようになって、『やってみる』と言ってしまいました」
かつてプロダクションを経営していたという男性は、出演に持ち込む際のカギは契約書だという。そこには「AV」の文字は一言もない。「成人向けである場合」だけだ。「『成人向け』でしょ。だからグラビアの場合もあるし、必ずしも成人向けじゃなくてもいいみたいな口説き方をするんです。とにかく早くというのが一番の近道です。目標は30分以内。考えないうちにやらせる。出演者を使って安心させるのも共通の手口ですね。マニュアル通りです」
支援弁護士「規制する法律がないんです」悪徳業者野放し状態
AV出演で怖いのは販売時ばかりではない。その後、ネットなどに動画が残り、それが拡散する。大学生の時に路上で「深夜番組の撮影に協力して欲しい」と声を掛けられた元アナウンサーの松本圭世さんの体験だ。停めてあった車の中に入ると、いきなり4人の男性に囲まれ卑猥な言葉を投げかけられた。撮影の3年後、松本さんはその時の場面がAVに使われていると知った。すでにアナウンサーとして活動していたが、映像はネットで拡散していて、すぐに番組を降板させられ、契約が更新されることもなかった。「不特定多数のまったく目に見えない人が相手なので、ものすごく怖いし、どこと戦えばいいのか分からないんですよね」
鎌倉千秋キャスター「視聴者から『警察に相談すれば』という声もあるんですが、取り締まりはどうなっているんでしょうか」
被害女性の支援に当たっている伊藤和子弁護士が言う。「リベンジポルノよりもひどい人権侵害だと思うんですが、今のところ規制する法律がなくて、刑事的処罰が難しいんです。そういった面で、私たちも国家的な規制立法を新たに作って欲しいと訴えているところです」
被害者がいても捜査や調査をすることができず、野放し状態ということである。
*NHKクローズアップ現代+(2016年7月25日放送「私はAV出演を強要された~『普通の子』が狙われる~」)
ビレッジマン