ご飯やパンに含まれる糖質を制限するダイエットがブームだ。糖質オフやゼロをうたった食品の売れ行きは良好で、昨年のマーケット規模は3184億円に急成長した。ところが、極端な糖質制限にのめり込み、体調を崩すケースも相次いでいる。最近の研究では、糖質制限ダイエットのつもりが、逆に「隠れメタボ」となり、将来、重い心臓病や脳卒中にかかる危険性があると指摘されている。
東京・渋谷の弁当店は、客の要望に応えてご飯をブロッコリーに差し替えて大好評だ。昼時になると行列ができ、販売する弁当のうち2割がこのブロッコリー差し替えサービスという。弁当店はさらにブロッコリーカツ丼やブロッコリーカレーなどを登場させた。東京・大崎のハンバーガー店はパンの代わりにレタスで包む野菜ハンバーガーが人気だ。
ダイエットブームはこれまでもさまざまあった。1970年代は紅茶キノコ、ニンニク、80年代はリンゴ、こんにゃく、酢大豆、90年代は黒酢、寒天、ココア、ごま、2000年代はざくろ、豆乳、プーアール茶、キャベツ、バナナがもてはやされた。
通勤電車の中で冷や汗・めまいで救急搬送
「なぜブームは繰り返されるのでしょうか」
小郷知子キャスターの疑問に群馬大学の高橋久仁子名誉教授(栄養学)の答えは明快だ。「痩せたいという痩せ願望が基本的にあって、できれば楽をして痩せたい。で、これさえ食べていれば痩せられる、これさえ食べなければ痩せられるとなるんです。『フードファディズム』の概念で説明できます」
フードファディズムとは栄養が健康に与える影響を過大に評価したり信奉することをいう。高橋教授は「これさえ食べれば痩せられるというものはないのですが、誰かにそう言われてそればかり食べることが、過去ずっと繰り返されてきたのです」と話す。
日本人成人が1日に必要なエネルギーは、女性1400~2000キロカロリー、男性2200キロカロリーが目安とされる。国はこのうち6割をご飯やパンに含まれる糖質で摂るよう推奨しており、残るタンパク質や脂質よりも比率が大きい。たとえば、2000カロリーが必要な成人が毎日糖質を取らないと800キロカロリーとなり、たしかに楽をして痩せられるが、体や健康にとっては大きなダメージとなる。
54歳のサラリーマンは会社の検診でメタボを指摘され、昨年夏から雑誌やネットの記事をもとに糖質制限のイエットに取り組んだ。キャベツの千切りに蒸し鶏を乗せたサラダが中心で、ご飯やパンは一切食べなかった。97キロあった体重は1か月で87キロとなり、気を良くして、次はもっと大きな結果を出そうと夕食を抜き、ゆで卵は白身だけにするなどエスカレートしていった。
すると、ある時、通勤電車内で目まいと冷や汗が止まらなくなり、病院に救急搬送されてしまった。この男性は1日500キロカロリーしか摂取していなかった。「やりすぎると本当におっかないことを痛感しました」と反省する。