7日(2016年7月)の七夕。東京タワーなど全国2万を超える施設が一斉にライトダウンした。しかし、夜空を見上げても、明かりが多すぎて天の川は見えない。光学の専門学者のグループが先ごろ発表した報告では、「日本人の7割は天の川を見られない」とあった。
日本列島最南端の石垣島で「星空ツアー」が人気だ。夜9時、観光客が真っ暗な畑に集まってくる。見上げる満天の星。みな口々に「東京では見られない空があった」「心が洗われる。癒される」という。ツアーガイドの上野貴弘さんは4年前にここで見た星空に魅せられ、東京から移り住んだ。「石垣の空は日本の宝です。残さないといけない」
上野さんは石垣島を「星空保護区」にすることを目指している。天文学者などでつくる国際団体が出す認定制度で、地球上でいま67か所しかない。日本はゼロだ。認定は、ただ暗いだけではなくて、住民の暮らしと星空を両立させるというのがミソで、街灯の高さを抑えたり光が空へ向かって不必要に漏れないなど工夫が必要となる。かつ、住民の生活に支障があってはいけない。
上野さんは「夜の暗さは財産です。夜空は大切なものだと次の世代に伝えられる場所に、石垣島がなればいい」と張り切っている。
東日本大震災で東京も「計画停電」明るすぎる都会に気付いた
なぜ日本の夜空はこんなに明るくなってしまったのか。照明デザイナーの面出薫さんは、「戦後に普及した蛍光灯が原因」という。光が多い方が幸せ、豊かさだとされてきた。これが変わったのが2011年3月11日の東日本大震災だ。首都圏は計画停電を経験して節電意識が芽生えた。当時は東京の夜空は4割ほど暗くなったという。「本当に必要な灯りとは」を考え直すきっかけになったらしい。
この日はスタジオも照明を落としてバックは天の川の映像だった。20年以上、暗闇文化を研究しているという作家の中野純さんは、「暗ければ暗いほど見えるものはあります、蛍、星、宇宙の彼方・・・。暗くないと人間は謙虚さを忘れてしまう」と話す。
中野さんは「闇歩きツアー」というのをやっている。東京郊外の山の中を灯りなしで2、3時間、時には一晩中歩く。時々、地べたに寝そべって星空を仰ぐ。「最初は真っ暗ですが、どんどん目が慣れて見えてきます。5~10分は怖いけど、それを過ぎると闇と一体になれるんです。そして光の中へ戻ってくると、心も体もすっきりしている。光がストレスだったと気づきます」という。
東京・浅草の緑泉寺は毎月「暗闇食事会」をやっていた。参加者はアイマスクをして出された料理を手探りで食べる。「何だろ?」「豆腐?」「ナス?」「生姜?」。そして灯りをつけて食感と見た目のギャップを見る。普段の食事がいかに視覚に頼っているか。五感のすべてを生かしていないかがわかるという。
ビジネスマンのための「暗闇研修」というのもある。真っ暗な部屋でグループで組み木を手探りで組み立てる。形や大きさを互いに伝え合う中でコミュニケーション能力を養うのだという。
伊東敏恵キャスター「真っ暗風呂」体験
視聴者から「部屋を真っ暗にすると、まるで宇宙にいるような気がします。みなさん、試してみませんか」というメッセージがあった。中野さんは「家族がいますから風呂でやるのがいちばんいい。一人ですから」という。
伊東敏恵キャスターが「では、お風呂から始めてみましょう」とさっそくやってみた。マンションだから漏れてくる光はまったくない。5分、10分経っても何も見えない。結局、すっきりもしないし謙虚にもならなかった。やはり、星明かりくらいはあったほうがいいのかもしれない。
ヤンヤン
*NHKクローズアップ現代+(2016年7月7日放送「暗い夜が楽しい~いま星空は見えていますか~」)