アドルフ・ヒトラーにそっくりの男がテレビに出演することになった。男は動揺しながらも、カメラの前で過激な演説を始める。視聴者はそっくり芸に度肝を抜かれる。それもそのはず、男は1945年から現代にタイムスリップしたヒトラー本人だったのだ。男は「腕の確かなモノマネ芸人」として人気を博していく。
ヒトラーを演じるのは身長190センチの舞台俳優オリバー・マスッチ。1977年生まれのデビッド・ベンド監督が母国ドイツで130万部発行のベストセラー小説を映画化した。
そっくりなモノマネ芸人としてテレビの人気者に
2015 Mythos Film Produktions GmbH & Co. KG Constantin Film Produktion GmbH Claussen & W?bke & Putz Filmproduktion GmbH
最近、ヒトラーやナチスを扱った映画が増えているのは、ドイツでアドルフ・ヒトラー著「我が闘争」の著作権が切れたことだけではなく、世界情勢の不安が反映しているのかもしれない。コメディ映画として制作され、ヒトラーを世紀の独裁者として描くのではなく、「1945年の総統」として描く。
現代ドイツや世界の社会問題にヒトラーが切り込んでいくという狙いは、コメディと言う体裁をまとっているものの、中身は右傾化する時代に対しての警告と痛烈な風刺を孕んでいる。
笑いと風刺のバランスがギリギリで、良く上映できたなと思うようなセリフもある。ヒトラーがインターネットと遭遇するシーンは象徴的だ。便利さに驚くのではなく、「侵略」に使えることに感動するのだ。そして、彼にしか考えつかないようなワード検索をする。その瞬間に観客は大笑いだ。
ヒトラーの熱狂演説「時代への苦言」的を射ている怖さ
モノマネ芸人として認知されたヒトラーの現代に対する苦言は、庶民の気持ちの代弁にも聞こえる。ヒトラーがテレビで演説するシーンは胸に熱く迫るものがある。オリバー・マスッチの迫真的な芝居、監督のメッセージが人を動かす感動を生む。マスッチはヒトラーを演じることを躊躇ったが、監督の熱意に動かされて承諾したと語っている。
世界は言葉でできている。良くも悪くも言葉を巧みに使う人間が人間を魅了し動かしていく。マスッチ扮するヒトラーは過去、現代、未来に語りかけているように、力の限りに熱論を繰り返す。狂ったように熱論を繰り返す。この演説シーンの感動は到底「言葉にならない」。
丸輪 太郎
おススメ度☆☆☆☆