イギリスのキャメロン首相の後継は、国民投票でEU離脱をリードしてきた同じ保守党で、元ロンドン市長のボリス・ジョンソン氏が有力と目されている。だが、きのう26日(2016年6月)、ロンドンの自宅前に押しかけた市民は、現れたジョンソン氏に「バカやろう」「恥を知れ」「お前はクズだ」と罵声を浴びせていた。どういうことか。当のイギリス人たちがまさか離脱になるとは思っていなかったというのだ。
スコットランドは「英国から独立してあらめてEU加盟」
EUの押し付ける緊縮政策や加盟国民の移動の自由への反発は、どこの国でも大きな不満となっていたが、とりわけイギリスでは東欧諸国からの移民の増加、安い労働力の流入で、労働者階級にしわ寄せが来ていた。もともとイギリスはユーロの通貨統合には加わっておらず、政府の上にEUがあることを良しとしない気風もあった。
そうした感情が離脱票に流れたのだが、実は多くの人は残留になるだろうと踏んでいた。離脱票のかなりの部分がEUへの抗議を示す意味合いだったらしい。しかし、僅差で離脱が通ってしまい、ある男性は「世界中で笑い者になってる」と話す。
残留派はあす28日に国会議事堂前で「投票結果の撤回」を求める集会を開くほか、議会のホームページには国民投票のやり直しを求める署名が320万人も集まった。これとは別に、ネット上では、「ロンドンの独立」「EU加盟」を求める署名が16万人にもなった。
この結果を受けて、昨年の「独立」住民投票で敗れたスコットランド民族党のスタージョン党首は、「独立のための2回目の住民投票を議論すべきだ」と動き出した。スコットランドは今回は残留が多かったのだが、代わって「独立」が息を吹き返した。イングランドから独立して、独自にEUに加盟しようというわけだ。
Regret(後悔)とExit(離脱)を組み合わせた新語「Regrexit」
英国民以外にも現実は重い。ドイツのメルケル首相は「欧州統合のプロセスの転換点だ。欧州はますます分裂するだろう」と懸念を表明した。EU各国がもっとも懸念するのは、追随する国が出る「離脱ドミノ」で、28日からのEU首脳会合でもこれへの対処が話し合われる。現に、イギリスの投票結果が出た後のに行われたスペインの総選挙では、EUの緊縮政策に批判的な党が躍進した。来年になると、オランダの総選挙、フランスの大統領選・下院議員選、ドイツの総選挙がある。いずれも、EU離脱を主張する勢力を抱えている。
パトリック・ハーランが(タレント)「英国民は後悔していますよ。EUに不満があって抗議のつもりで離脱に投票したら、まさかの結果になっってしまった」と、新しい造語を見せた。Regret(後悔)とExit(離脱)を組み合わせてRegrexitだ。
龍崎孝(流通経済大教授)「人の移動の自由とEUが各国の財政に口を出しすぎると不満は強いんです。イギリスは民族主義も強かった」
民主主義は油断するとこういうことも起こりうる。「衆愚」というやつだ。改めて心配になるのがアメリカ。アメリカの民主主義はイギリスよりもっと危ういところがある。もしトランプが大統領選に勝ったら、ロンドンショックところじゃない。