聴覚障害をもちながら「交響曲第1番(HIROSHIMA)」などを発表し「現代のベートーベン」とまで賞賛された佐村河内守だったが、「週刊文春」で音楽家の新垣隆が佐村河内のゴーストライターをしていたこと、実は耳は聴こえていたと暴露した。佐村河内は謝罪し、その後はメデイアに出ず沈黙を続けていた。その自宅で森達也監督がカメラを回し始めた。
佐村河内の耳が聴こえていることは映画が始まってすぐ分かる。妻と食事をしているとき、佐村河内が豆乳ばかり飲んでいるので、監督が「食事には手をつけませんねえ」と聞くと、妻の手話通訳を待たず「僕は豆乳が大好きだから全部飲み終わってから食事するんです」と答えてしまうのだ。これには観客は大笑いである。
飼い猫は知ってる「あんたはFAKEだ」
「あなたは私を信じているんですか」と佐村河内が監督に聞く。監督は「すべてを信じてなくては撮れない、もう心中だから」と答えるが、本当にそうなのか。ときおり佐村河内の飼い猫のクローズアップがインサートされ、私はこれは「あっかんべー」なのだと思った。もっともらしい話をした直後にインサートされるからだ。「これはFAKE(偽物)なんだよ」と。
外国人ジャーナリストも取材に現れる。質問は厳しい。「この部屋には楽器がありませんが、どうしました?」
「部屋が狭いので3年前に捨てました」と佐村河内は答える。これがラストへの伏線となる。ラスト近くで監督が「あなたの頭の中は音楽でいっぱいなはずだ。それを私に見せてください」と挑発する。それに佐村河内が応える。それが「最後の12分は誰にも言わないでください」というシーンだ。さらにタイトルロールが全部出たあとに、監督が佐村河内に質問をする「ダメ押し」があるのだ。
佐竹大心
オススメ度☆☆☆