先月(2016年5月)、東京・小金井で女子大生でシンガーの冨田真由さん(20)が刺された事件は、ツイッターやフェイスブックなどSNSを舞台にしたストーカー犯罪の新たな形だった。「サイバーストーカー」と呼ばれ、この2、3年で増えている。
冨田さんはライブ会場の前で、首や背中など20か所以上を刺され、何日も意識不明の重体だった。一命はとりとめたものの退院のめどは立っていない。刺したのは岩埼友宏容疑者(殺人未遂容疑で逮捕)で、4か月にわたってツイッターなどで執拗な書き込みを繰り返していた。
岩埼の書き込みは初めは好意的だったが、間もなく電話番号を聞き出そうとするなどつきまとい始め、冨田さんが返事をしないと書き込み内容が変わった。「ふざけんなマジで」「あんたにすげー怒ってる」「胸糞悪っ」「お前それでも人間か」。書き込みは4か月で300件以上になった。
冨田さんは事件の12日前に武蔵野署に相談していた。SNSの書き込みを見せたが、担当者は「暴力を示唆する文言がない」として、直ちに危険とは判断せず岩埼に警告もしなかった。ストーカー規制法では連続した電話、ファクス、メールを対象としているが、SNSは対象外だったこともあった。だが、書き込み内容を見て危険性を見抜けなかったことは、法律以前の問題という指摘がある。
加害者側心理のエスカレート「ハザード」「リスク」「デンジャー」「ポイズン」
SNSには思わぬ作用が潜む。日常の出来事を気軽に発信するSNSは、本来、遠いはずの有名人・芸能人との距離を縮める。思い込みがエスカレートするスピードも速い。サイバーストーカーを作る引き金と専門家はいう。冨田さんのケースはその典型だった。
その心理を元加害者だった30代の女性が明かした。ある作家のファンだった。作家が日常を綴ったツイッターでそばにいるような気持ちになった。返事があると、好意を持たれていると思い、会いたいと書きこんだ。断られると、「奥さんの留守に会いたい」「あなたの赤ちゃんを」とストーカー行為にのめり込んだ。「私が苦しむんだから、相手の平和も乱したいという欲求が膨れ上がった」という。1か月に100通、ついには自宅に押しかけるまでになって、警察から「接近禁止」の警告を受け、目が覚めた。
ストーカー被害の相談を20年近く受けているNPO法人の小早川明子さんは、「昔のストーカーは元交際相手とか元夫とかだから、動機も言い分もあって、アイドリングの時間がありました。今は一気にドライブになる。スピードが怖い」と話す。
小早川さんによると、加害者の心理的危険度には段階があるという。最初が「リスク(危険の恐れ)」で「やり直したい」という段階。ここでリスク管理をしないと、次の「デンジャー(危険)」に進み「お前が悪い」と攻撃・ストーキングが始まる。最後の「ポイズン(有毒)」は「死んでやる」「殺してやる」とエスカレートする。
だが、SNS時代は「リスク」の前に「ハザード(危険を生む環境)」の段階があるという。1対1の人間関係の破綻ではなく、一方的な思いから接近要求を当然のこと考えてしまうのだ。不特定多数が相手となるスマホやツイッターが生んだ新しい状況なのだと見る。
伊東敏恵キャスター「被害者にも加害者にもなりうるんですね」