奨学金が返済できずに自己破産するケースが、累計で1万件になった。大学は出たが、非正規の仕事で収入が少なく、滞納、督促、裁判所命令と追い込まれて、累が家族にまで及ぶケースもあるという。昔はこんな話はなかった。どこかがおかしい。
仙台で自己破産した29歳の保育士の女性は、母子家庭で、高校、大学と奨学金を受け残債は約600万円あった。非正規のため月収は14万円前後で、生活費を差し引くと月5万円の返済ができなかった。「自力でやっていけると思っていたのですが、返せず、延滞金がついて、このままでは一生払い続けないといけないと思ったのです」
自己破産は苦渋の決断だった。「迷惑をかけたくない」と婚約も解消した。悲惨だ。彼女が何か悪いことをしたのかと言いたくなる。
自己破産を申請中の愛知県の20代の女性は正社員で4年働いたが、昨年失業して返済ができなくなった。借りた奨学金はまだ407万円ある。自己破産で女性の支払いは免除されるが、請求は身元保証人の60代の父親に行く。毎月2万2000円を払って15年かかる。「共倒れになりそうで怖い」
子どもは自己破産。保証人の老親に数百万円の督促
奨学金は経済に余裕のない家庭の子が仕送りやアルバイトで足らない分を補うものだが、大学の授業料は私立でいま86万円、国立で53万円だ。親の仕送り額は2015年の平均は8万6700円と最低を更新した。学生の2人に1人が奨学金を借りている。それに伴って返済の滞納は14年は32万人で増えつつある。
日本学生支援機構はこの数年、回収を強化している。返済予定日を過ぎると5%の延滞金、3か月続くと個人信用情報機関に登録、さらに債権回収専門会社の督促が始まり、自宅訪問や会社に電話がくる。9か月後には一括支払いの督促が裁判所からくる。まるでサラ金だ。2014年、裁判所からの督促は8400件、10年で40倍になった。
大阪の62歳の男性は4人の子供を育て上げ、いまは離婚して独り暮らし。老後のため中古マンションをローンで購入した直後、次男の奨学金の一括返済の督促状が届いた。次男は大学院に進学して、850万円の奨学金を受けていた。非正規のカウンセラーをしているが収入が少なく返済できなかった。父も住宅ローンがある。民事再生で200万円に減額して分割払いとしたが、残り600万円の請求が、もう1人の保証人である別れた妻にいった。元妻は自己破産するしかなかった。
東京大の小林雅之教授は「終身雇用制なら安定して返済できたんでしょうが、非正規だとこれができない。社会全体の問題です」という。
授業料高く給付型支援少ない日本!「教育の公的負担」先進国で最低
日本は先進国の中でも教育の公的支援が非常に少ない国だ。北欧やドイツは私的負担はない。アメリカ、イギリス、カナダは授業料は高いが、給付型の補助が多い。フランス、イタリアなどは授業料が安く、給付型の補助がある。授業料が高く、給付型が少ないのは日本くらいのものだ。
教育評論家の尾木直樹さんは「これが僕が育った国なのかとショックです」という。日本学生支援機構の仕組みを「金融機関の教育ローンと同じ。スカラーシップの精神がまったくない。サラ金より酷い」という。
支援機構は日本育英会から奨学金事業を引き継いだが、焦げ付きの解消が命題だった。「自己責任」を前面に出して回収強化となった。「次の世代のための奨学金の原資を作らないといけない」という。その結果がサラ金化かい。
政府は2日(2016年6月)に一億総活躍プランを決定して、給付型奨学金の創設に向けて議論を進めるとした。これに尾木さんは「非常識な国家なんです」と手厳しい。国際人権A規約では高等教育は無償となっているが、日本はこの条項を外して1996年に批准した。2012年にようやくこれを受け入れたのだが、「この4年間何もしてなかった」(尾木さん)
親に負担をかけまいと借りた奨学金が老後の親を苦しめる。そうして取り立てた資金が次の奨学金になり、新たな破産予備軍を作り出すという構図だ。「未来への投資」どころか、「未来を潰す」奨学金とは何なのか。根本から考え直す必要がある。
ヤンヤン
*NHKクローズアップ現代(2016年6月2日放送「『奨学金破産』の衝撃 若者が...家族が...」)