「そして父になる」「海街diary」など、近年の是枝裕和監督の映画は一貫して「家族の絆」がテーマだ。今年(2016年)のカンヌ映画祭「ある視点部門」に出品され、上映終了後7分間のスタンディングオベーションを受け絶賛された。
主人公の良多(阿部寛)は15年前に文学賞を1度とっただけで、今は興信所に勤め、浮気調査、迷い猫探しなどの探偵稼業だ。周囲にも自分にも探偵は「小説のための取材」だと言い訳している。妻の響子(真木よう子)に愛想をつかされ離婚し、11歳の息子・真吾の養育費もまともに払えない。しかし、別れた響子に未練たらたらだ。良多が頼りにしているの母の淑子(樹木希林)は、苦労をさせられた夫を亡くして、団地で気楽な一人暮らしを送っている。
人生、こんなはずじゃなかった・・・
月に1度の真吾との面会日にたまたま淑子の家に集まった良多、響子、真吾は大型台風のため翌朝まで帰れなくなる。「台風が来るのって、なんか気持ちがセイセイする」と淑子がラジオ体操を始める。台風が来るとワクワクする不思議な高揚感。分かるなあ、その気持ち。
登場人物たちはみな「人生、こんなはずじゃなかった」と思っている。とりわけ良多は息子のための野球のスパイクをわざと傷つけて店員にマケさせたり、仏前の供物の饅頭をほうばりながら母のヘソクリを探すなど、とにかくせこい。
全編、苦笑に満ちている。セリフの一つ一つが思わず膝を叩きたくなるような言いえて妙の数々だ。「なんで男は今を愛せないのかねえ」「大器晩成って、時間がかかりすぎですよ」「人生なんて単純」「誰かの過去になる勇気を持つのが大人の男」「自分のダメさを時代のせいにしちゃダメよ」などなど。