踏み切ってから入水までのわずか2秒(時速50キロに相当)という一瞬の間に技を繰り出し美を競う高飛び込みは、これまでメダルを獲得した日本選手はいないが、リオ五輪では取れるかもしれないと期待されている女子高生選手いる。兵庫県西宮市の甲子園学院高校2年の板橋美波選手(16)だ。
柔らかい関節と全身筋肉
高飛び込みは「前宙返り」「後ろ宙返り」「前逆宙返り」「後踏切前宙返り」「捻り」「逆立ち」の6種類のなかから5種類選び、技と美で合計得点を競う。板橋選手が凄いのは「前宙返り4回半抱え型」という大技をもっていることだ。前宙返りで4回転半するもので、世界でも彼女しかできない。
司会の羽鳥慎一羽鳥が甲子園学院高校を訪ねると、制服姿で現れた。ごく普通の女子高生で、ニコニコしながら「150センチ、47キロですよ」と答える。小学1年生以のときから通い続けるJSS宝塚スイミングスクールの練習について行った。指導するのは飛び込みの本場・中国から来た馬淵崇英コーチだ。平日の放課後5時間が練習で、その半分は柔軟トレーニング、残り半分が50本の飛込みだ。柔軟に力を入れるのは、ケガ防止だけでなく、空中で技を大きく見せるために必要という。
水着に着替えて登場した板橋選手を見て羽鳥は驚く。全身が筋肉のかたまり。さらに柔軟トレーニングを見て仰天した。両足を開き頭を床につける開脚では両足が上に反り返る。曲げた爪先のままで直立する。このほか、回転スピードをつけるために、腹と両足に合わせて2キロの重りを付けて逆回転したり、トランポリンの練習も欠かさない。柔軟トレーニングで胸や腕の可動域を広げることで腕の振りが大きくなるほか、入水の際に水面にぶつかる体の面積を小さくし、受ける衝撃を少なくする。
失敗しても気持ちの切り替え
馬淵コーチが目をつけたのは脚力だった。「脚力があるので3回転半をやると回転が速くて止まらない。じゃあ4回転半させるしかないと」と決めた。小学5年生の時に才能を見込まれて五輪養成コースへ進んだ。その成果が昨年6月(2015年)の日本室内選手権で出た。5回飛んだ得点合計が404.20。ロンドン五輪金メダル422.30にはあと一歩だったが、銀メダルの366.56を大幅に上回る記録となった。
「自信はどうですか」と羽鳥が聞く。「試合で1本失敗したら次どうしようかとなってしまうので、そこの切り替えができるようになったら、試合での不安がなくなると思います」
羽鳥は高飛び込みの過酷さをこう伝える。「最初に4回転半を飛んだ時に失敗して両腿がアザで真っ青になったそうです。今も最初に回転するときは怖いらしいです。回転しているときに、シュン、シュン、シュンという音が聞こえてくるんだそうです。その音を聞いて4回転するんだそうです」