日本橋で開かれた不動産投資セミナーは、40歳以下を中心に200人と昨年の2倍以上の参加者だった。安定的な賃貸収入を得るのが目的だ。「サラリーだけじゃ不安」「結婚できなかったら1人で生きないといけない」「いつまで働けるか」。不安は男女を問わなかった。
東京の不動産市場は東京五輪や金融緩和を追い風に活況だ。新築マンションの価格はリーマンショック前の水準を超え、バブル期に迫った。これを牽引しているのが都心のタワーマンションである。給料が上がるという実感はないのに誰が買っているのか。
値上がりしているのは東京都心の3区だけ
湯川悟史さん(31)は2年前、タワーマンションの1LDKを全額ローンの3200万円で買った。それがいま4200万円の査定だ。含み益1000万円。自身は売る気はないが、転売を繰り返している知人は10人以上いるという。なかには5回も転売・購入を繰り返した人もいる。「空中族」というらしい。
その1人が話した。外資系企業で働く40歳。妻と1歳の子がいる。今の住まいは7000万円だが、これまでに2回転売をした。初めは2年で2000万円の利益。これを元手に5600万円に買い替え、すぐに売って1600万円を得て、今の住まいを購入した。「ゲームに近い感覚かも。リスクをとって投資すると、より成功する」
通常、築1年で売りに出る物件は2%とされるが、ここ1年半は20%というマンションが珍しくない。ただ、昨秋(2015年)頃から価格下落の兆しがみられる。先の「空中族」男性は「リスクをヘッジ(避ける)していくことも必要。最悪、住み続けるということ」と話す。
「空中族」は富裕層なのか。みずほ証券上級研究員の石澤卓志さんは「違う」という。「平均年収(415万円)より若干高い程度。虎の子をうまく運用したい人たちなんです。富裕層が節税対策にしていた従来の不動産投資とは違います」
投資漫画を描いている漫画家の三田紀房さんは「空中族とはいいネーミングですねえ。投資が熱くなるのはアマチュアのプレーヤーが増える時で、これに銀行がくっつくと一気に活気が出る。資金調達が便利になって、収入は下がっても投資欲は上がっている」
しかし、慶応大の金子勝教授は「値上がり益狙いはミニバブル的だ」と否定的だ。「問題なのは、東京でも港、中央、千代田の商業地だけが上がって、他は下がっていることです。地方との格差だけでなく、東京都内でも格差が出ているんです」