「2016年度本屋大賞」(第13回)がきのう13日(2016年4月)に発表になった。受賞は宮下奈都の「羊と鋼の森」。全国の書店員が「一番売りたい本」として選ぶこの賞は、ある意味では「本当に面白い」というお墨付きでもある。売れ行きも芥川賞なんか目じゃないという。今年は10作品がノミネートされ、全国の書店員552人が投票した。
書店は特設コーナー作ってお祭り騒ぎ
「羊と鋼の森」はピアノの調律に魅せられた青年が成長する姿を綴った長編で、文章の美しさが選考の鍵でもあったという。「森の匂いがした。秋の、夜に近い時間の森。問題は、近くに森などないことだ。目の前に大きな黒いピアノがあった。その人が鍵盤をいくつか叩くと、蓋の開いた森から、また木々の揺れる匂いがした」
ナレーションで流れるとスタジオで「お~っ」と声が上がった。
宮下は自宅で「実感はないです。期待すらしていなかった。ピンとこないんですよ」と話す。これまでの発行部数は11万2500部だそうだが、今後に期待しているのは作者よりも書店員の方だ。
発表と同時に各書店では特設コーナーを作り、ノミネート作品から順位に従って並べ替えたり、店員が一斉にTシャツを着込んだり大わらわだ。本屋大賞の受賞作は大ヒット確実だからだ。「お祭りですよ、お祭り」
2010年の「天地明察」(冲方丁・角川文庫)はノミネート前は4万部だったのが、ノミネートで7万部、受賞直後に38万部、現在までに150万部という。
最近5年間を芥川賞作品の売れ行きと比べてみると、芥川賞では「火花」(ピース・又吉)の251万部が唯一の例外で、他は4万5000~25万5000部。対して、本屋大賞は「海賊とよばれた男」377万部(13年)、「謎解きはディナーのあとで」215万3000部(11 年)、「舟を編む」123万5000部(12年)と桁違いである。「村上海賊の娘」(14年)、「鹿の王」(15年)も100万部超だ。
読まない人も買っちゃうヒット本。映画化になればまた売れる
司会の加藤浩次「『海賊とよばれた男』が377万!」
100万部とはどんな数字か。三省堂の副本店長の松下恒夫さんは「読まない人も買っちゃうとか、そういうレベルまでいかないと出ない数字」という。
しかも先がある。面白い本だから映画化にも多く、するとまたオファーが殺到するのだ。日本アカデミー賞の最優秀作品賞の「東京タワー、オカンとボクと、時々、オトン」は06年の本屋大賞作だ。13年の「海賊とよばれた男」も映画公開が決まっている。第1回の「博士の愛した数式」以来、12作のうち10作品が映画やドラマ化されている。
本好きの加藤はノミネート作品のうち「半分は読んだ」という。「面白かった」とあげたのは、「教団X」(中村文則)、「朝が来る」(辻村深月)、「君の膵臓をたべたい」(住野よる)だ。