アメリカの大統領選挙は、共和党はドナルド・トランプ、民主党はヒラリー・クリントンの対決という流れだが、ネガティブ・キャンペーンも激しくなっている。ニューヨーク支局の西橋麻衣子のリポートが面白い。日本では禁じられている個人攻撃がアメリカでは許されているから、皮肉やユーモアを競うことになる。
「僕はとっても頭がいいんだ」うぬぼれトランプに大笑い
西橋は「トランプ候補もクリントン候補も、実は嫌われ者として有名なんです」としれっと言う。互いに欠点があって攻撃しやすいということだ。まずトランプが仕掛けた。16日(2016年3月)のテレビCMでは「手強い敵に立ち向かわねばならない」と、ロシアのプーチン大統領が柔道でぶん投げるシーンとイスラム国(IS)の戦士がピストルを突きつける映像が流れた。そして、「民主党が用意している完璧な答えは」と続き、クリントンが「ワン、ワン」と犬の鳴き真似をしている。これにプーチンがくっくっと笑う映像を重ね、「笑いを取っている場合ではない」ときた。
民主党も負けていない。翌日、「手強い敵に」というトランプ映像の前段をそっくりいただいて、「共和党が用意している完璧な答えは」として出したのが、テレビ番組で司会者の問いに答えるトランプ。司会者が「初日から大統領として対処するために、どんな専門家と話し合っていますか」と聞くと、トランプは「自分と話し合っている。僕はとてもいい頭脳を持っているからね。結局そういうことだよ」。すかさずクリントンが大笑いする映像が出て、「笑いを取っ ている場合ではない」「ヒラリーに1票を」と終わる。
西橋「外交問題なんかトランプ氏はわからないと、笑い者にしているCMなんですね。クリントン氏はバラエティ番組にも出演してイメージアップを図っています」という。いつも怒っているイメージが強いクリントンが、にっこり笑顔でウインクしていた。「優しい大人の女性をアピールしています」
英経済紙「エコノミスト」が警告!トランプ当選は世界経済の危機
「中傷合戦は面白いんですが、深刻な面も出ています」と西橋が出したのが、イギリスの経済誌「エコノミスト」が予想する「世界の経済危機トップ10」だ。1位の「中国経済の急速な失速」から始まって、6位に「トランプの大統領選勝利」とあって、テロの脅威よりも上だ。
司会の小倉智昭「トランプ大統領になったら大変といわれていますが、ヒスパニックや黒人の票が30%くらいあるんでしょう?」
西橋「クリントン氏はそこに強いですから、本選挙ではトランプ氏は勝てないといわれてますが、どうなるかわからないと連日報道が続いています」
小倉「トランプさんは過半数を取れそうなんですか」
西橋「もしかしたら難しい。そうなると7月のコンベンションで話し合いになるんですが、トランプ氏はそこで選ばれなかったら『暴動だ』と強気で、どう転んでも共和党は盛り上がりそうな情勢です」
中瀬ゆかり(新潮社出版部長)「このパロディー合戦は、両方が貶められたような」(笑)
木暮太一(経済ジャーナリスト)「このキャンペーンのVTRを作るのは楽しそうだな」(笑)
それより、このバカバカしい選挙システムを考え直そうという声は出ないのか。面白い国だ。