認知症の父親の監督責任を家族はどこまで負うべきなのか。妻と長男に損害賠償を命じた下級審の判決を最高裁が覆した。愛知県大府市で2007年、認知症の父親(当時91)が妻がうたた寝しているスキに外出し、徘徊中に列車にはねられ死亡した。この事故で振り替輸送などの費用が掛かったとして、JR東海は妻(当時85)と長男に約720万円の損害賠償を請求した。
一審の名古屋地裁は請求通り720万円の賠償を認定、二審の名古屋高裁は同居の妻だけを「監督義務者」と判断して半分の360万円の支払いを命じていた。
賠償責任を定めた民法714条「認知症患者」想定外
きのう1日(2016年3月)にだされた最高裁の判断はどういうものなのだろう。「同居する妻は介護1の認定を受け、同居する配偶者というだけで直ちに監督義務を負うとは言えない。長男も20年以上も別居し、それでも父親の見守りは相当なもので、監督義務を怠っていたとは言えない」というもので、家族は監督義務を果たしており、怠ったとはいえないという判断だ。
なぜ1、2審と判断が180度違ったのか。監督義務者の賠償責任を定めた民法714条が抽象的で、認知症患者の介護まで想定しておらず、監督責任の線引きが不明瞭のためだ。このため、最高裁は「監督する人の生活や心身の状況、介護の実態など総合的に考慮して決めるべきだ」と指針を示した。
TBS解説委員の龍崎孝「高齢化社会が進むなかで、こうした事例が今後も出てくるでしょう。事故の背景とか、取り巻く環境など100例あればそれぞれが異なる。今回の判断は一つの指針だが、今後いろんな考え方が出されていくのではないでしょうか」