村人たちに掘り返され追いやられた先祖代々の墓!家族も村八分
15年10月4日、ひとりの死刑囚が獄死した。奥西勝(享年89)。1961年、三重県名張市の村の懇親会で、ぶどう酒を飲んだ女性5人が死亡した「名張ぶどう酒事件」で死刑を言い渡されていた。35歳で逮捕され、「自白」は強要されたものだと主張して無実を訴え続けた。事件後、奥西家の墓は村人たちに掘り返され、共同墓地から離された。奈良県の山村に暮らす4歳年下の妹は無実を信じ、片道5時間かけて兄のもとに通い続けた。
ナレーションの仲代達矢の重厚な語り口が真実の重みをつきつける。仲代は東海テレビ制作のドラマ「約束 名張ぶどう酒事件 死刑囚の生涯」(2012年)で奥西勝を演じた。東海テレビは「光と影~光市母子殺害事件弁護団の300日」「平成ジレンマ」「ヤクザと憲法」などの意欲作を発表し続けている。「東海テレビはあなたが無罪になるまで、取材をし、ドキュメンタリーを制作し続けます。どうか天国から見守っていてください」と制作者は誓った。
二つの事件に共通しているのは、物的証拠の乏しさだ。そのため、警察は自白を引き出そうと強引な取り調べを続けた。
この映画のタイトルは「ふたりの死刑囚」だが、3人目の死刑囚が登場する。帝銀事件の平沢貞通だ。1948年、東京の帝国銀行で12人が毒殺された。逮捕され死刑囚となった平沢は、裁判のやり直しを何度も求めた。87年に肺炎で死亡。拘留生活は39年、18度目の再審請求の途中だった。
塀の中の半世紀。再審の棄却を何回も繰り返している間に死刑囚が病死する。司法はこれを狙っていたのか・・・。献身的な家族の支えが感動的だ。
佐竹大心
おススメ度☆☆☆