神戸地裁で26日(2016年1月)に行われた兵庫元県議、野々村竜太郎被告(49)の裁判を傍聴した阿部祐二リポーターは、「異例の展開がいくつもありました」と伝えた。
異様な大泣き会見で始まり、「精神不安定」を理由に昨年11月の予定だった初公判をすっぽかし、再び出廷しないおそれがあるとして強制的に出廷させる拘引手続きを取っての公判だった。
起訴状によると、野々村は3年間で344回の架空の出張を繰り返し、受領した政務活動費1684万円のうち分かっただけでも913万円を騙し取って、詐欺、虚偽有印公文書作成・同行使の罪に問われている。警察の調べに対し、野々村は「選挙費用がかさんでいったんもらった政務活動費を返したくなくなった。実際には出張はほとんど行っていないし、政務活動には使わなかった」と供述して、1684万円を返還している。
頭剃って黒のスーツ
頭を剃って、黒のスーツ姿で法廷に現れた野々村は、姿勢をただし、「公判を欠席し、深く反省し謝罪をさせて頂きます」と頭を下げた。阿部リポーターは「この時点では、誰もが裁判は円滑に進むと思った」という。
ところが、これまでの供述を覆し「収支報告書に虚偽の記載をしたことは決してございません」と起訴内容を全面否認し、検察官や弁護人とのやり取りも異様な展開になった。事前に打ち合わせしているはずの弁護人も戸惑うばかりだった。
―(政務活動費を)どのように管理していたのですか。
「記憶を確認するために少しお待ちいただけますようお願い申し上げます」。考え込む素振りをしたあと「記憶にございません」。
―思い出せませんか。
「思い出せません」
―受け取った利用の控えの保管場所の記憶はありますか。
「思い出す努力をしますのでお待ちいただくようお願い申し上げます」。再び考え込む素振りのあと「記憶にありません。思い出せません」
こうしたやり取りが9回も続き、弁護人から「元県議なのだから説明責任があることは分かりますよね。あなたに説明する気はありますか」と注文までつく始末だった。
裁判長「2か月間の身柄拘束」命令
裁判長も呆れて、「被告人、そんなに難しいことを聞かれているわけではないでしょう」と叱責する場面もあった。しかし、その後も「覚えておりません」「記憶がありません」「思い出せません」を繰り返し、公判5時間半の間に88回も連発した。とうとう、「記憶障害の可能性があると診断されています。診断書も提出できます」と言い出した。阿部は「記憶障害の診断日、警察の取り調べ日時、警察官の名前はすらすらと出てきていて、(証言の内容を)使い分けていると感じた」という。
裁判はどう進むのか。神戸地裁は野々村の言動は信用できないとして、3月25日まで再び身柄を拘束する手続きを取った。次回公判は2月22日に決まり、記憶障害の診断書を提出するよう求めた。