激しい痛みを訴える末期がん患者の在宅医療の現場で、「終末期鎮静」が広がっているという。苦痛を取り除くため鎮静剤を投与し、意識を落として眠ったまま最期を迎えるというものだ。多くのケースで水分や栄養は与えられず、眠ったまま数日から1週間で死亡する。昨年(2015年)、NHKなどが行ったアンケートでは、在宅治療を行った医師の4割が過去5年間に終末期鎮静を行った経験があると回答した。
しかし、「持続的な深い鎮静」と呼ばれる終末期鎮静は、安楽死と区別ができないという指摘もある。
家族の苦悩「死に加担してしまったという罪悪感」
NHKの池田誠一記者(報道局特別報道チーム)はこう報告する。「日本で違法となる『積極的安楽死』では、医師が患者に死にいたる薬を投与して命を終わらせます。終末期鎮静は苦痛緩和を目的として鎮静剤を投与するもので、積極的安楽死とは違うとされています。しかし、薬を投与したあと患者が命を終えるという点で、両者はよく似ているんです」
自宅療養で強い痛みを訴える末期がん患者に終末期鎮静を行ったある医師は、「穏やかな状態で患者を見送りたいのが本音ですが、必要となる人はどうしても出てきてしまう」と話す。鎮静は「患者さんを取りまくすべての人たちの苦痛を緩和する最後の切り札」だが、「ご家族にも場合によっては何年も残るような後悔と、つらかった思い出になる」と言う。
姉を子宮けいがんで亡くした女性は「姉の死に加担してしまったという罪悪感」を感じ続けているという。家族は終末期鎮静を希望していなかったが、本人の希望を受け入れて行った。しかし、「たとえ本人が苦しかろうと、望んでなかろうと、生きるための医療行為をし続けることが、姉をあきらめないことなんじゃないか」との思いがあるという。