長野・軽井沢町の碓氷バイパスで起きたスキーバス事故で明らかになったのは、規制を強めてもいっこうに守らない旅行会社とバス会社の横行だ。学生たちがこのツアーを選んだ理由に「激安」があったことは確かだ。旅行会社「キースツアー」の社長は「(安くても)安全面を削ることは絶対ない」と話しているが、果たしてそうか。
たった260円のために高速道路使わせず?
バスを運行していた「イーエスピー」は元は警備会社で、2014年にバス事業に参入。事故2日前には、ドライバーの健康管理が不十分だとして、国土交通省から処分を受けていた。しかし、ずさんさはそれだけではなかった。
4年前の関越道での事故の背景に激しい価格競争があるとして、国交省はツアー受注金額の基準を「26万円を下回らない」と改めた。しかし、イーエスピーの受注額は19万円だった。キースツアーの要求だ。
キースツアーは11年に設立、社員5人。どんな仕事ぶりだったかを、以前に仕事を請け負ったバス運転手は「最悪のイメージを持ってます」と話す。出発の4、5時間前に、急に「車がなくて客が40人困ってる。どうにかしてほしい」と頼まれたという。高速道路を使う条件で引き受けた。その後、「通常通り(高速使わず)で」といってきたので、「できません」と断ったら、それっきりだった。
なぜ安値ツアーを仕立てたのかを、キースツアーは観光庁に「雪が少ないので客が集まりにくい。初めは安い運賃でと提案した」と説明しているという。
石原良純(タレント)「12年の関越道の時教訓がまったく生きてないですよね。すべての当事者が基準を守らないと、事故は起こり続けるますよ」
運行実態の解明の鍵の一つは運転手が勝手にルートを変更していたことである。本来は上信越道を通るはずが、カーブの多い碓氷バイパスを走っていた。運転手はその前にもルート変更していた。高坂サービスエリアで休憩のはずが止まらず、一般道に下りずに関越道を走り続けた。このため通行料金は4630円になり、行程表だと関越道2530円、上信越道1840円で計4370円の予定だったが、260円オーバーしていた。そのため、一般道の碓氷バイパスを通った可能性がある。あくまで推測だが、わずか260円だ。
住田裕子(弁護士)「運転手は契約社員だから、何らかのペナルティがあったかもしれないですね」
大型バス経験5回しかない高齢運転手に深夜担当
バス会社のズサンさもひどい。出発前の運転手の健康チェックをしておらず、2人の運転手の検診の記録もなかった。基準以下の受注代金で運行していたり、運行指示書には発着地のみでルートの記載がなく、おまけに運行終了前に確認の印が押されていた。
運転していた65歳の運転手は12メートルの大型バスの運転は、研修を含めて5回しか乗ったことがなかった。バス運転手らに話を聞いた岡安弥生レポーターは「みんな、ありえないと言っていました」という。
交通労連バス部会の鎌田佳伸事務局長は「契約社員に夜間の運転をさせることはありえないことですよ。また、57歳、58歳以上の人には夜間の運転はさせません」と話す。
司会の羽鳥慎一「マイクロバスとはぜんぜん違いますよね。大型に5回しか乗ってない65歳が運転せざるをえなかったわけです」
他の運転手も高齢運転手とはペアを組みたがらないという。
鎌田事務局長「氷山の一角です。安い受注を受けたということは、コスト削減も飲んでいるわけで、悪い悪循環になっているんです」
「モーニングショー」スタッフが実際に激安バスに乗ってみた。池袋発で事故バスと同じルートだ。高坂SAで休憩した時、運転手の話が聞こえた。「37人いる。1人多い」「多いんならいいだろう」とそのままスタートする。実は36人しか乗っていなかった。次の場所で15人が降りた。21人残ってるはずだが、「20人しかいない」「勝手に降りたのはしょうがない」とそのままだったそうだ。
鎌田事務局長「平成18年と24年と今回と、事故があるたびに対策が取られてきたのですが、何も変わっていません。旅行会社が料金を安くする。これを受けないと(バス会社に)仕事を回さないという。この強要を処罰しない限りなくなりません」
住田「旅行会社とバス会社の共同不法行為です」
監督官庁はどこを見ているのだろう。