中国との商売広げたいが、呑み込まれるのは怖い
台湾から戻ったばかりという松田康博・東大東洋文化研究所教授は、現地の空気を「平静です。最初の選挙から20年ですし、政権交代があっても3度目ですから」「蔡氏は女性なので、新たな視点で変えてくれるという期待が高まっています」と話す。
ただ、財界人には政権交代を危ぶむ声もある。経済協定に基づく優遇措置で中国への輸出を伸ばしてきたからだ。平潭の自由貿易港でネット通販をする企業家は「誰が総統になっても、台湾の外でのビジネスで共存共栄できること。それがいい政策だ」という。本音はなかなか微妙だと、松田教授はいう。
「中台関係が損なわれるのが怖い、中国との過去の合意を継承してほしいと考える一方で、中国に呑み込まれる『統一』に近いのも困る。一定程度の独自性は保ちたいというところでしょう」
政権交代となれば国民党路線は修正されるだろうが、経済界の声は無視できまい。進出した企業も後戻りはできない。松田教授は「接近の度合いはストップするだろうが、なお中国との距離をどうとるかは、日台関係にも関わります。推移を見守る必要があります」
台湾の総統選挙は恐ろしく加熱して、時に流血もあったものだが、松田教授のいうように今回はおとなしいようだ。若い人たちが真剣に自分たちの将来像を考えているのが印象的だった。選挙の結果で民主主義に自信が持てれば、あえて劇的な変化は要らないのかもしれ ない。