スティーヴン・スピルバーグがトム・ハンクスとタッグを組んだサスペンスドラマだ。脚本はコーエン兄弟が担当する豪華な顔ぶれとなっている。
1960年代の一触即発状態が続いていた米ソ冷戦時代、CIAが極秘に遂行していた偵察機「U-2」がソ連領土内で撃墜され、アメリカ人パイロットが拘束される。弁護士のジェームズ・ドノヴァン(トム・ハンクス)はジョン・F・ケネディ大統領から、アメリカ国内で拘束されているかつて弁護したソ連のスパイとの身柄交換交渉を要請される。
国家の非人道性、理不尽さが浮き彫り
実話物で、アカデミー賞受けの良い硬派なテイストだ。スリリングなサスペンスを押し出すのではなく、冷戦時代の緊張を淡々と描き、エッジの効いた台詞回しが絶妙なテンポを作り上げている。肝となるテーマを台詞やナレーションで説明しないバランスも絶妙だ。「シンドラーのリスト」以来スピルバーグ作品の撮影を担当しているカミンスキーは、粘りのカメラワークで役者の表情を逃がさない
米ソ政府にとってパイロットやスパイは情報戦の『道具』でしかなく、代わりはいくらでもいるという非人道的な実態を訴えていく説得力はさすがスピルバーグと言わざるをえない。はじめに任務ありき、人は二の次がという戦争(冷戦であっても)の異常性を何度も訴える。異常な時代にこそ人道的な対応が大切になるというのである。
トム・ハンクスが筋通す弁護士を好演
ドノヴァンはソ連のスパイの弁護をすることで世間の非難を浴びる。戦争は大衆の集団心理でエスカレートしていくという恐怖だ。そんな状況で信念を通し、スパイの人権を守ろうとするドノヴァンの姿に「人間らしさ」を見るはずだ。
トム・ハンクスの芝居だけでも観る価値があるし、まず間違いなくアカデミー賞レースに絡んでくるだろう。新年1本目に観る映画にもってこいの傑作である。
丸輪 太郎
オススメ度☆☆☆☆