北朝鮮の朝鮮中央テレビは日本時間の6日(2016年)正午過ぎ、「水爆実験に成功した」と伝えた。核実験は3年ぶり4回目だが水爆は初めてだ。「歴史的大壮挙」と自画自賛しているが、観測された地震はマグニチュード5.0と過去3回と同レベルで、はたして「水爆」なのかには疑義もある。
国連のパン・ギムン事務総長は直ちに「国際社会を無視するものだ」と抗議の声明を出し、安保理は新たな制裁決議に向けて協議開始を全会一致で決めた。
驚かせてやろうとあえて米中に事前通告せず
韓国の高麗大のナム・ソンウク教授は「金正恩第1書記に焦りがある」と見る。5月(2016年)に36年ぶりに朝鮮労働党大会を予定しており、金正恩はここで新たな指導者であることを誇示する必要があるが、就任以来これといった実績がない。そこで「水爆」を急いだと分析している。
さらに、きっかけは中国との関係の変化だという。金正恩の瀬戸際外交に中国は冷ややかな態度を取ってきた。それが昨年10月(2015年)の中国最高指導部の訪朝で軟化が見え、12月には「モランボン楽団」が関係改善の一環として北京入りした。ところが、ステージのバックにミサイルなど軍事力を誇示する映像が使われることがわかり、中国が変更を求めたことで楽団は公演を中止し、引き揚げてしまった。金正恩が水爆実験の命令を出したのは12月15日、楽団引き揚げの3日後だった。
これまでのように、中国へ核実験の事前通告も今回はなかった。ナム教授は「正恩氏は中国に対して存在感を誇示する必要を感じたのでしょう」という。
これに中国がどう出るかだが、見方は分かれる。去年、平壌を訪問した静岡県立大の伊豆見元教授は、「街には中国製品があふれ、携帯電話も普及し、タクシーも多くなっていました。豊かさを感じましたね。北朝鮮は中国が強く出てくることはないと思っている可能性があります」と話す。
しかし、中国・復旦大学の石源華教授は「事前に知らされなかった中国の衝撃は大きく、絶対に容認しない。これまでにない厳しい措置に出る。国連の制裁にも賛同するだろう」と正反対の見方だ。
中国も堪忍袋の緒が切れた!国連制裁に賛同
アメリカの衝撃も大きかった。ブッシュ政権で北朝鮮との核交渉に携わったジョージタウン大学のビクター・チャ教授は、「北は核保有国として、米国と交渉したいのだろうが、米外交での北の優先順位は低い。強い圧力をかけるべきだ。米国は同盟国の日本、韓国と協力して、中国に最優先で対応するよう働きかけるべきだ」という。
中国との関係を損なってでもという核実験の意図は何なのか。金正恩は元日の所感では「経済発展と人民の生活向上」を訴えただけで、核実験には一切触れなかった。それだけに衝撃は強かった。早稲田大大学院の李鍾元教授は「あえて内外への衝撃を狙ったのだろう。ウォッチャーはみな虚をつかれた」という。関西学院大学の平岩俊司教授も「中国とも韓国とも対話重視に見えていました。また、北はそのために自制していた面があったが、モランボンの件でその必要はなくなったと判断したのではないか」と見る。
李教授「核実験はこれまでアメリカに向けられてきたが、今回は中国に向けられたものでしょう。短期的には中国の圧力を拒絶するという強烈なサインです」
平岩教授「圧力をかけて北朝鮮が混乱することは中国も望んでいないし、北朝鮮もそれをよく知っている」
オバマ政権は北朝鮮に対していわゆる「戦略的無視」を通してきた。この実験にはそうしたアメリカの政策の失敗を印象付ける狙いがあると、李教授は言う。オバマ政権の次の政権との何らかの交渉の土台を作りたいという意図も感ずる指摘する。
結局、話は中国へ戻る。過去の核実験に対する国連制裁の効果が上がらなかったのは、中国の消極的な姿勢にあった。「今回はその中国の持つ力をどう使わせるかだ」と平岩教授はいう。つまりは、関係国の連携がカギを握ると、これが結 論だった。
ヤンヤン