入り乱れる敵味方、次々倒れるキーパーソン・・・。直前まで丁寧に書き込まれていたキャラクターがたちまち葬られていくジェットコースターノベルの映画化である。
裏社会を牛耳る寺原親子に恋人を殺された主人公・鈴木(生田斗真)は、復讐のためにその傘下の組織に潜り込む。しかし、寺原息子は「押し屋」なる新たな殺し屋(吉岡秀隆)に、あっさり殺されてしまう。鈴木は潜入した組織から押し屋を追えと命じられるが、二転、三転して、鈴木が組織から狙われることになる。
血しぶき飛ぶ惨い殺戮シーンに釘づけ
跳ね返る血しぶき、繰り出されるアクションシーン、東京・渋谷のスクランブル交差点いっぱいにさざめく大群衆の迫力に一気に引き込まれた。浅野忠信演じる黒ずくめの自殺に見せかけて殺す自殺屋「鯨」、山田涼介の正統派ナイフ使い「蝉」ら、バラエティ豊かな殺し屋勢の「お仕事シーン」はむごいのだけれど、凝視せずにはいられない。
怨恨と金銭のやりとりが絡み合い、登場人物はみな誰かへの殺意を抱き、誰かから殺意を向けられる複雑な矢印の中で話は展開していく。だれが敵か味方かわからないまま人が倒れ、命からがら逃避行を続ける鈴木も、最終的には人質の解放を条件に敵陣営へ自らの身を渡す決断をする。
生田が演じる鈴木は、伊坂幸太郎の原作小説の鈴木よりも少し素直で勇敢だ。ほかのキャラクターも同じで、浅野の鯨は罪の意識が強めで、山田の蝉は心を許せる仲間を持っている。ラストではこの殺し合いがなぜ勃発したかの種明かしもきちんと行われる。理由なき悪意、退屈をバイオレンスで彩る小説「グラスホッパー」の世界に比べて、映画「グラスホッパー」の世界は少しだけ優しい。
原作ファンも納得のシニカルな結末
正義が勝つとは限らない。完全な悪も完全な正義もこの世にはない。ただ、優しくあろうとすることは、世界を少しだけ善なる方向に引き戻す。原作ファンなら、おそらく「らしい」と感じるだろうシニカルな性善説が提示され、物語は幕を閉じる。
次々増える登場人物、多用されるレトリック、はっきりと明かされない真相など、およそわかりやすいとは言いにくいストーリーを、見やすく組み立て直した上で、フォトジェニックな俳優たちの立ち回りで「魅せる」。続編というべきか、同シリーズの「マリアビートル」もぜひ同じ監督で映像化を!と思える良作でした。
ばんぶぅ
おススメ度☆☆☆