深夜、番組の試写中にプロデューサーの怒号が響いた。「奴のプロモーション番組になってるじゃねぇか。ダメだ、これじゃお蔵入りにするぞ」
頭を真っ赤にしながら怒るプロデューサー。一瞬、場の空気が凍るけれど、誰かがこれを言わなくては番組を世の中に出すことはできない。制作していたのは、タレントが何かに挑戦しながら旅をするドキュメンタリー要素の強い旅番組だ。当然、ある程度の密着取材にはなるのだが、ここで多くのディレクターが陥ってしまうひとつのループがある。出演者と気持ちの距離が近くなりすぎて、神聖化した作りになってしまうということだ。
密着取材の落とし穴!相手との距離近くなり過ぎてファン目線
出演者にべったり張り付いてカメラを回していると情も生まれて、どうしても彼らをかっこよく見せる番組になってしまいがちだ。芸能人という特殊な職業の人は、やはり人を引き付ける力も強く、魅力的な人が多い。考え方が影響されてしまうディレクターが必ず出てきて、すると出演者の主観が元になった構成や編集になってしまい、ファンだけが見るような番組になってしまうのだ。
これは人のいいディレクターに傾向が強いけれど、いい人とデキる人は違う。デキるディレクターは、言い方を変えれば、性格が悪い。密着取材中でも相手の思うつぼには乗らないように、どこか突き放すように精神的にも距離を保っている。一緒にいるのに、心は一つにならない。
ロケ中に同じ釜の飯を食い、仲間という感覚が生まれても、心の中では相手を全面的に信頼することはしない。欲しいのは、これまでテレビでは見せたことがない表情やコメントで、時には相手を追い詰める環境作りを画策したりする。
たとえば、少し嫌がるような質問を執拗にすることもいとわない。失敗した姿や困惑する姿にもカメラを回す。少々イジワルな人の方ができ上がりは客観視して見られるものになることが多い。
出演者とスタッフの程よい緊張関係
今回、プロデューサーが怒鳴りちらした試写の段階では、出演者を持ち上げすぎて中身がペラペラなものに仕上がっていたのだ。スタッフみんなで撮影した素材を探し直したところ、実はもっと面白いコメントや心に残るようなコメントをしている映像を見つけることができた。
なぜこんないい素材を落としたのか問われたディレクターは、「なんか、出演者がカッコ悪く見える気がして・・・。ちょっとエラそうな言い方しているから、出演者が損をすると思って」と口ごもりながら言っていた。そう、これもよくあるケースだ。密着取材して、その後ずっと編集期間に入ると、何が良くて何が悪いのか、何が面白くて、何がつまらないのか。もう、なにがなんだかわからなくなってしまうのだ。だからこそ、プロデューサーが俯瞰して物を言わない。
ところが、これができないプロデューサーも多い。出演者にべったりで、出演者を尊敬しつつも、使う側と使われる側であるという大前提を忘れているんじゃないかしらと頭をかしげることがある。親子ほど年の離れた人気タレントに、「いいですね~、サスガですね~」と褒めちぎって、改善点をまったく言わない。一出演者と一スタッフ、その関係性がいい番組ほど内容も充実していていい番組になる。
モジョっこ