15年後にベルギーはイスラム国家!「週刊新潮」テロ憎しはわかるが極論すぎないか
ISのパリ同時多発テロ事件以来、週刊新潮、週刊文春の「日本は難民を受け入れに慎重であるべきだ」というキャンペーンが週毎に大きくなっているようだ。テロリストたちが潜んでいたとされるベルギーを引き合いに出して、「ベルギーは15年後にイスラム国家になる」と警鐘乱打する。現在、イスラム教徒はベルギーの人口の6%にすぎない。ましてやイスラム教徒がすべてISの協力者になるわけでもないのに、<仮に欧州の中心に位置するベルギーがイスラム国家に変貌すれば、テロリストたちはEU圏内を縦横無尽に移動して、テロ攻撃などやりたい放題だ>(週刊新潮)と断じている。
憎むべきはISであって、ほとんどのイスラム教徒はテロを憎み、ISをよしとはしていない。難民を受け入れれば、その中にテロリストたちが紛れ込み、日本でもテロが起こるかもしれないという可能性は否定しないが、だからといって難民排斥、イスラム教徒は色眼鏡で見ろとでもいうような論調は、あまりにも偏狭すぎると思う。
また両誌がともに噛みついているのが、テレビ朝日系「報道ステーション」の古舘伊知郎キャスターの発言である。テロ後の11月16日の番組内の以下の発言がケシカランというのだ。
「この残忍なテロはとんでもないことは当然ですけども、一方でですね、有志連合の、アメリカの誤爆によって無辜の民が殺される。結婚式の車列にドローンによって無人機から爆弾が投下されて、皆殺しの目に遭う。これも反対側から見るとテロですよね」
翌日には「(ISとの)対話を避けている場合ではないと思います。(中略)何とか軟着陸を、という対話を模索しなければならない緊迫状態にあると思うんです」と語ったことにも、綺麗事をいうなと怒る、怒る。
週刊新潮は、有志連合の誤爆による民間死傷者はこれまでの1年間で計200人から300人と推計されるが、一方のISはこれまで数千から1万人近くを処刑、虐殺しているではないか。古舘氏(法政大学の田中優子総長の発言も批判しているが、ここでは省く)の議論は<誤爆の悲劇に心を心を奪われ、実態を俯瞰的に、冷静に分析する目を欠いた、極めてエモーショナルなものに映るのである>(週刊新潮)
イスラム教徒が大勢になればテロリストが跳梁跋扈するという見方のほうが、よほど悲劇に目を奪われたエモーショナルな考えだと思うが、そうは考えないらしい。
たしかに、ISの連中と今すぐ対話ができるとは私も考えない。だが、スラム教への深い考察もなく、ISがなぜこれほどまでに勢力を伸ばしてきたのかを考えることなしに、恐怖心ばかりを植え付けるのは、メディアのあり方として如何なものかと思う。
週刊朝日で田原総一朗氏は「私は率直に言うと、アメリカがなぜアサドを潰そうとしているのか、よくわからない」と書いている。「ありもしない理由をつけてフセイン大統領を潰した。そのためにイラクは大混乱し、混乱の中で、ISが生まれたのである。いわば、ISをつくったのはアメリカなのだ。
アサド大統領が潰れれば、シリアはさらに混乱することになり、ISが事実上の権力を握る可能性だってある」(田原氏)
さらにこう続ける。「アメリカ、イギリス、フランス、ロシアなど戦勝国は、実は第一次世界大戦前のアフリカ、アジア、中米での数々の侵略行為の責任をまったく取っていないのだ。
例えば英仏ロの3大国は1916年に『サイクス・ピコ協定』という密約を結び、中東地域の国境の『線引き』を勝手に定めてしまった。ISはそれに怒って、イスラムの独立の旗印を掲げているのである」
ISを潰せば何事もすべて収まるというのは大国の「幻想」でしかない。