フランス・パリで13日(2015年11月)夜に起きた過激派組織「イスラム国」(IS)による同時多発テロで百数十人が亡くなり、けが人は300人以上、うち100人程が重傷だされる。この憎んでもあまりあるテロ事件に『週刊新潮』『週刊文春』も緊急特集を組んでいるが、残念ながら取材時間が限られていたため、目新しい情報はない。
週刊新潮によれば、テロリストたちが立てこもったコンサート会場に突撃したのは、フランス国家警察に所属する「BRI(探索出動班)」とその指揮下にあった「BRID(特別介入部隊)」の80人からなる混成チームで、「軍隊並みの装備を誇る彼らの使命はあくまで敵の制圧で、生け捕りなどは考慮に入れない警察組織」だったという。
ISの支配地域では14歳で徴兵され、捕虜や逃亡兵の内臓売買を行ったりと残虐極まりない行為を行っているとし、その流れから、朝日新聞や毎日新聞は日本は難民の受け入れに冷たいという論陣を張っているが、難民を受け入れれば、その中に偽装したISの兵士たちが紛れ込むという危険性を指摘しないのは無責任だと批判する。
週刊文春も、日本もテロとは無縁ではなく、このままいけば来年5月に開かれる予定の伊勢志摩サミットや20年の東京五輪が狙われると警鐘を鳴らす。また、作家の佐藤優氏に、今回のテロはISが全世界に向けた戦争宣言で、中東諸国へ難民支援などの経済協力をしている日本も狙われると語らせ、どのようにテロをやれば大量の死者が出るのかという手口まで教授させているのは、行き過ぎではないか。
<特に日本で狙われやすいのは「新幹線」です。(中略)入念な計画を立てて、車両の間でガソリンをまいて気化させ、トンネルに入るタイミングで火をつければ確実に車両爆破します。トンネル内の火災は消火が難しいため、数百人の死者が出るでしょう>
そうさせないために新幹線に乗る乗客のガソリンチェックをしろ、劇場や野球場もやるべきだと氏は主張する。オウム真理教にもあれだけ同調する人間がいたのだから、ISに同調する日本人が100人ぐらいいてもおかしくない。したがって日本人が起こすテロにも備えるべきだというのである。
こうした意見が散見される中、さっそく自民党の谷垣幹事長や高村正彦副総裁が「重大な犯罪の謀議に加わっただけで処罰対象となる共謀罪」の創設をいい出し始めた。日本中がISのテロを許すなと大合唱しているときなら、これまで3度廃案になっている悪法を通せると目論んでいるのである。ISのテロ行為は断じて許すわけにはいかない。だからといって、アラブ系の人たち全員を「危険人物」としてリストアップしたり、危険思想の日本人だと決めつけて盗聴や尾行するなど許されることではない。
アメリカの9・11テロ後のように、全メディアが政権のいうがまま沈黙し、大義も証拠もないままイラク戦争へ突入したことがきっかけとなって、ISが勢力を伸ばし、結果、難民が大量に出てきたことを忘れてはなるまい。評論家の故・加藤周一氏はメディアについてこう語っていた。
<報道が事実か事実に反するかということじゃなくて、マス・メディアが何に沈黙するかが決定的に重要なことがあります。マス・メディアが伝えないことに注意する必要がある>(『加藤周一戦後を語る』かもがわ出版より)
今回のテロ事件を憎むあまり、ISと戦争状態に入れりと息巻くアメリカやロシア、日本政府のやり方を無批判に受け入れてはいけない。この機会に、地球上からテロをなくすためには何をどう改善しなければならないのかを真剣に考えることこそ大事なはずだ。
総選挙圧勝のアウンサン・スー・チー気に入らない「ニューズウィーク」新たな独裁者と批判
軍事独裁政権下で迫害を受けながら雄々しく生き、11月8日に行われた総選挙で圧倒的勝利を勝ち得たミャンマーのアウンサン・スー・チー氏だが、彼女の発言が波紋を呼んでいる。
『ニューズウィーク日本版』は氏の「次期大統領には何の権限もない」という言葉を取り上げ、<自身は憲法の規定で大統領になれないが、決定はすべて自分が下すと述べた>と書いている。これは、スー・チー氏が外国籍の子供を持つためだが、彼女のこれまでの労苦や多くのミャンマー市民の支持を得ていることを考えれば、当然の発言だと思うが、週刊新潮も批判的である。彼女はこれまで法の支配の重要性を説いてきたのに、大統領を軽んじる発言をするというのでは、また新たな独裁政権になるのではないかと、知識層を中心に危機感が高まっているというのである。
しかし、ニューズウィークによれば、今回の選挙でも議席の25%は選挙で選ばれない「軍人枠」が確保されているという。よって警察や軍がスー・チー氏が率いるNLD(国民民主連盟)の<言いなりにならないことも容易に想像できる>(ニューズウィーク)のだから、彼女が危機感と強いリーダーシップを持とうという考えは当然ではないだろうか。