抗生物質が効かない耐性菌の広がりが深刻化し、治るはずの病気が治らなくなるといった事態が広がっている。約70年前、ペニシリンが人類初の抗生物質として用いられて以来、新しい抗生物質が次々と開発されてきたが、それに対する耐性菌も発生して抗生物質が効きづらくなるということが繰り返されてきた。
現在、抗生物質の新規開発は頭打ちで、世界保健機関(WHO)は「このまま手を打たなければ、世界は抗生物質がなかった時代に逆戻りする」と警鐘を鳴らしている。
中耳炎が治らない!母体から感染!
子供を中心に年間50万人がかかるという中耳炎で、この数年は耐性菌によるものが目立っている。新生児医療の分野でも、感染に万全の態勢を取っている新生児集中治療室で、赤ちゃんが抗生物質の効きにくい大腸菌に感染して死亡した例がある。地域に広がっていた菌が母親に感染し、お腹のなかの赤ちゃんへと移ったと見られている。
とくに懸念されているのがCRE(カルバペネム耐性腸内細菌科細菌)だ。抗生物質の切り札的な存在であるカルバペネムをはじめ、ほとんどの抗生物質が効かないという。自ら増殖するだけでなく、他の細菌を次々とCREに変えていく性質があり広がりやすい。「最強の耐性菌」と言われている。
欧米では5年ほど前から感染が急増し、手術後の患者やがん患者などが多数死亡している。日本には少ないと見られていたが、昨年(2014年)、大阪市で大規模な集団感染が確認された。114人が感染し23人が死亡した。
使い過ぎの弊害!風邪やインフルエンザにも乱用
なぜ耐性菌が広がっているのか。大曲貴夫・国立国際医療研究センター国際感染症センター長は「一つには抗生物質の使いすぎ」だという。抗生物質は使いすぎると効かなくなるという特徴があるが、本来は不要な場合でも使われてきた。その好例が風邪やインフルエンザへの処方だという。これらはウイルスが原因で抗生物質は効果がないが、医師は「(抗生物質を求める)患者の目もあるし、出して損はない、害はないだろう」と投与しているのが実状だという。
病院内で耐性菌に感染した人が退院し、家族などに広がっていった面もあるという。WHOは「このままでは近代医療が成り立たなくなる」と危機感を強めている。