11月11日(2015年)午前0時、北京のオリンピック会場に作られた特設ステージの電光数字盤が動き出した。ネット通販バーゲンセールの始まりだ。凄まじい勢いで数字が伸びる。開始12分で成約金額が100億人民元(約1900億円)を突破した。歓声があがる。24時間後、数字は912億元(1兆7000億円)を超えていた。
中国ではこの日は「独身の日」ということになっている。独身者が自分にご褒美を買う日だったが、いまや通販バーゲンの日だ。サイトには洋服など日用品から自動車まで600万種類の商品が並び、通常の半額以下だ。日ごろは節約して、この日に備えていた人々が一斉に動いたのだ。経済が減速しようが、株が下がろうが、13億人の購買力は健在だった。
「洋服を12着も買っちゃった」「40万円は使った」「通販はもう中国人の生活の一部だ」
革命を起こしたのは巨大ネット企業「アリババ」だ。中国の通販は遅れていた。注文しても届かなかったり、届いたのがコピーだったりで、信用されなかった。「アリババ」は新たな決済システムを導入し、利用者は注文の品を確認してから支払いサインを出せるようになった。届くのは必ず本物。安心と信用を確保して軌道に乗った。
いま中国のネット通販の売り上げは年47兆円。3年で4倍近くに増え、アメリカを抜いて世界一だ。急増のきっかけは6年前から仕掛けた「独身の日」のバーゲンだった。昨年は1兆円を超え、今年はさらに7000億円以上を上積みした。農村部からも初めて参加があったとテレビが伝えた。4億6700万件が決済、集荷、宅配までほぼ完璧に動いた。
街の声が興奮を伝える。「洋服を12着も買っちゃった」「40万円は使った」「午前0時に注文した物がもう届いた」「通販はもう中国人の生活の一部だ」 中国事情に詳しい富士通総研の主席研究員、金堅敏さんも「びっくりしました。経 済のスローダウンでニーズは高くないと思っていたんですが」という。ここまで爆買いになるとは予想しなかったというわけだ。
金さんが懸念したのはインフラ(通信、決済、物流)が追いつくかどうかだったが、これも革新が進んでいた。
日本国内の爆買いツアーなんてほんのおこぼれ
中国の個人消費に占める通販の割り合いは日本やアメリカより高い。もともと中国人は貯蓄率が高い。金融資産のある層が20代から40代と若い。通販人口も4億人。条件はそろっている。
このバーゲンに今年初めて挑戦した子供服の「ミキハウストレード」は目玉として評判のいい「クツ」を4割引で投入する予定で、2万1000足を用意していた。執行役員の千田弘志さんが打ち合わせで杭州の「アリババ」本社を訪ねると、担当者が示した売り上げ目標は「2億円」だった。日本の10倍だ。さらに2万足を追加したいという。「120店舗でひと月に売る数ですよ。それを1日で?」という千田さんに、担当者は「不足したら客が逃げる」という。
生産を前倒しして1万足を追加したが、千田さんは「そんなに売れるのか」と半信半疑だった。いざスタートしてみると、予想を超えるスピードでさばけていった。3000足が残ったが、売り上げは2億6000万円と目標をはるかに超えた。千田さんは「自分たちにない世界が現実にできていた」という。
中国政府は従来の外需と不動産投資依存の経済から、内需主導へと構造転換を図っている。頼みは爆買いを産む庶民の購買力だ。「独身の日」の1日は13億人の購買力をいかんなく示したわけだ。
通販人口4億人はヨーロッパや日本を全部ひとまとめにしたより多い。日本国内の爆買いツアーなんてほんのおこぼれってわけか。なんとも大変な隣人をもったものよ。
ヤンヤン