仕事はデスクワーク、家に帰れば食卓に座り、食事が終わればソファでテレビ・・・1日に座っている時間は日本人が世界で最も長いという。ところが、最近の研究で座り続ける時間が長いと、体に深刻な影響を及ぼすことが分かってきた。乳がんや大腸がん、肺がん、糖尿病、心臓病などのリスクが高まるというのだ。
オーストラリアでは「オーストラリア人よ立ち上がれ!」と、官民一体となって座りすぎに警鐘を鳴らすキャンペーンが始まっている。首都メルボルンの小学校は児童の机を上下調節可能にし、立ちながら授業を受けられるようにした。「座っていると背中や首が痛くなるけど、立つと体が楽ちん」と好評だ。教員も「クラス全員で1日30分は立って過ごすようにしています。子どもたちも前より集中して授業を受けています」と成果を話す。キャンペーンでは職場でも1日2時間以上は立って過ごすよう薦めている。
この啓発キャンペーンの根拠になったのは、座り過ぎの弊害を指摘したシドニー大学の研究だ。22万人の成人男女を対象にした追跡調査で、調査期間中に死亡した人の生活スタイルを調べたところ、座る時間が大きく影響していることが分かった。座っている時間が1日4時間未満の人に比べ、11時間以上の人は死亡リスクが40%も高くなっていた。
ソファで長時間テレビ!肺がん発症率3割上昇
なぜ座りすぎが死亡リスクを高めるのか。座りすぎと健康との関係を研究してきたネヴィル・オーウェン博士は次のように指摘する。「立ったり歩いたりしている時は足の筋肉がよく働きます。このとき筋肉の細胞内では血液中の糖や中性脂肪が取り込まれ、エネルギーとして消費されて代謝が盛んに行われます。
しかし、座っていると代謝機能を支えている足の筋肉が活動せず、糖や中性脂肪が取り込まれにくくなって血液中で増えてしまいます。座った状態が長く続くと全身をめぐる血流が悪化してドロドロになり、狭心症、脳梗塞、心筋梗塞、糖尿病などのリスクが高まることが分かってきたのです」
さらに、座りすぎがより深刻な病につながる可能性も指摘されている。北海道大学の鵜川重和助教が全国約12万人の生活スタイルと病気との関係を調査したデータを解析してみると、男性の場合は座ってテレビを見ている時間の長さが肺がんの発症率に関係していることを突き止めた。座っている時間が2時間未満に比べ、4時間以上だと肺がんの発症率が3割以上高まるというのだ。「肝臓がん、慢性閉塞性肺疾患の可能性も高くなることが明らかになりました」という。
最悪の日本、2位サウジ、3位は台湾、ノルウェー、スイス
世界の20の国や地域で座っている時間を調べると、困ったことに日本は1位である。サウジアラビアが2位、台湾、ノルウェー、香港、チェコが3位だった。
国谷裕子キャスターが「座りすぎと健康との関係は、どこまで科学的な根拠として裏付けられているんですか」と、早稲田大学スポーツ科学学術院の岡浩一朗教授に聞く。「座りすぎが死亡リスクにつながっているという研究は、タバコを吸っているなど死亡に関わるような影響を統計学的に調整したとしても、認められていることなのです。体を動かすことが大腸がん、閉経後の乳がんの予防につながっていることは分かっているんです。
ただ、長時間立ち続けるのも腰痛などリスクはあります。同じ姿勢を続けることが大きな問題になるんだと思います」
漫然と立っているのではなく、つま先立ちを繰り返すなど筋肉を動かすことが重要で、岡教授は通勤や帰宅時に10分間早足で歩いたら、5分ゆっくり歩く有酸素運動を薦めている。
モンブラン