ロシア北部の小さな町で自動車修理工場を営むコーリャは、妻リリアと先妻との間に生まれた息子ロマの3人で、住み慣れた家で暮している。そこに、選挙を控えた市長のヴァディムが土地を買収しようと現れる。生活が権力で奪われる事態に怒りを覚えたコーリャは、友人の弁護士デイーマをモスクワから呼び寄せ、市長の悪事を突き止め、暴露して抗戦する。
デビュー作「父、帰る」でべネチア国際映画祭金獅子賞を受賞したアンドレイ・ズビャギンツェフ監督が、荒涼とした小さな町を舞台に罪なき人々に襲いかかる不条理を描く。
固陋な小さな町から抜け出したい!もがく後妻
ソ連時代を知らない子供イワンが、12年ぶりに突如姿を現した父に反発し、次第に愛情へと変化していく様子を寓話的タッチで描いた「父、帰る」は、ロシア思想文化にある神=父の「帰還」を通して、ロシア人にまた誇りと希望を取り戻して欲しいというメッセージを孕ませていたが、この映画に出てくるロシア人は悪人ばかりである。
なりふりかまわず目的を遂げようとする市長はその典型で、警察、裁判官、政治家、役人は一切笑みがなく、人相が悪く傲慢だ。対する人々は何かに怯えるようにひっそりと暮らし、表情も冴えない。ステレオタイプな構成はコメディー風にも映る。ドストエフスキーなどに代表される重厚なロシア文学がもたらすイメージを嘲笑っているような演出が意図するものはいったい何なのか筆者には分かりかねる。
リリアが小さな町に留まりたくないと思っていることがカギなのだろうか。広大な国土を擁しながらも、陰鬱なイメージを払拭できないロシアは、外に開いた社会を作らなければ、悪人たちに土地を奪われ、人々の生活の歴史が崩壊してしまうという監督の危惧が本作の本質なのかもしれない。
社会主義国の末路は、自国の人間同士が争い、裁かれるのはソ連時代を知る善人であるというパラドックスを描いているのか。広大過ぎるが故の過酷な自然を切り取った映像が何度もオーバーラップしてくる。
丸輪 太郎
おススメ度☆☆