なぜなくならないのか大病院の『医療事故』年間1300~2000人死亡!とにかく隠せの閉鎖体質

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   千葉県がんセンターで7年前に父親を亡くした渋谷春樹さん(仮名)の自宅の留守電には、手術前日の父の元気な声が残っている。初期の胃がんですぐ退院できると楽観していた。ところが、腹腔鏡手術のあと容態が急変して死亡した。病院は「傷口が開いた」「一定の確率で起こる合併症で仕方がなかった」と説明した。納得するしかなかった。

   この3月(2015年)、信じられないニュースを見た。がんセンターではその後も腹腔鏡手術が続けられ、11人の患者が亡くなっていた。いずれも、父の時と同じ消化器外科のチームによるものだった。渋谷さんはいま、「父の死がムダになってほしくない」という。

現場からの指摘「何かおかしい」耳貸さなかった千葉県がんセンター

   渋谷さんの死亡を医療チームは「避け難い合併症」「再発防止は困難」で通してきたが、第三者委員会は渋谷さんのケースを医師の技量不足とした。他にも、止血が遅れたなど「何例かは発生を予防できた可能性がある」と断じた。

   実は、内部で声をあげていた人がいた。麻酔科の志村福子医師は手術のやり直しが多いことに気付いた。「手術時間は長いし、出血は多いし・・・。それが翌日、翌々日に縫合不全とか出血で戻ってくる」

   幹部に訴えたが、組織としてとりあげられなかった。どんな場合に調査するかのルールもなかった。「一例 一例向き合っていれば、そこで終わっていたかもしれない」

   調査が行われたのは外部への告発があってからだった。がんセンターはいま調査部門の権限強化や安全スタッフの増員、聞き取りなど、改革に取り組んでいる。ようやくといったところだ。

   順天堂医院副院長で天皇の手術も担当した天野篤さんは「麻酔科の医師の訴えに対応しなかった。組織のガバナンスの欠如です。医療安全の文化が欠けて いた。基幹病院ではあってはならないことです」という。

動き出した「名古屋大学付属病院」事故調査は責任追及より原因解明と再発防止

   医療事故はあとを絶たない。医療事故での死亡は年間1300~2000人と推定されている(厚生労働省)。国は今月(2015年10月)、「医療事故調査制度」をスタートさせた。予期しなかった死亡事故について、院内調査と第三者機関への報告を義務づけるものだが、調査するかどうかの判断は医療機関に委ねられている。自浄作用は大丈夫だろうか。

   過去に重大事故を起こしている名古屋大学付属病院は、1日に2000人が訪れる大病院だ。ここでは「ひやり、ハッと」も含めた「事故」の報告が年間1万件あり、「安全管理部」に届く。担当者はすべてに目を通し、重要度と専門性から再発防止につなげている。いわば国の制度の先取りである。

   患者にある薬を投与したら発作を起こした。医師、看護師に弁護士も参加して、あらゆる可能性が検証される。現場へのヒヤリングもする。死亡事例や医療ミスの可能性のあるものは外部の専門家を入れた調査委を設置する。情報は公開が原則で、過去10年間の重大事例はいつでも閲覧できる。

   すべては再発防止のためだ。事故調査も責任追及ではなく、患者の命を救うことにつなげる。そうした意識の浸透で、報告件数は増え、過失による重大事故は抑えられた。長尾能雅副院長は「医療安全は先進医療のためのチケット。安全だから新しい医療も許される」という。

   天野さんは「名大は医療安全の究極の形だと思う。医療安全の文化は空気かもしれない。薄くなれば苦しい。だから濃いめにすることが大切だと思います」

   「いい医者に巡り会うのも寿命のうち」という。助かったらいい医者というわ けだが、本当にいい医者かどうかは、なにかが起こったときにわかるのか もしれない。どこまでいっても、患者はまな板の鯉である。

*NHKクローズアップ現代(2015年10月22日放送「なぜ医療事故は繰り返されるのか~再発防止への模索~」)

ヤンヤン

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