「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」のスタッフが再結集し、制作されたオリジナル劇場用アニメーションである。「あの花」同様、埼玉県秩父市を舞台にした青春群像劇で、高校生たちの成長と恋が描かれる。
あることを話してしまったために、家族をバラバラにしてしまった少女・成瀬順(水瀬いのり)のもとに玉子の妖精が現れ、「もう2度と人を傷つけないように」と順は言葉を封印されてしまう。
時が経ち、高校生になった順は極力目立たぬように振舞い、言葉を発することなく生活をしていた。そんなある日、「地域ふれあい交流会」という地域行事の実行委員に選ばれ、ひょんなことからミュージカル演劇の主役を演じることになる。
ミュージカル公演目指す青春群像
しゃべらないヒロイン・順、本音を言わないドライな少年・拓実(内山昴輝)、恋に悩むチアリーダー部部長・菜月(雨宮天)、ケガのためにやさぐれてしまった元野球部エース・田崎(細谷佳正)の4人も実行委員に選ばれる。群像劇はキャラクターが多いので、話を広げすぎて収拾がつかなかったり、平均的に描きすぎて何が言いたいのか分からないことが少なくない。しかし、キャラクターの描き方、劇中劇の用い方などにさまざまな工夫を凝らしていて、平板にならずに済んでいる。
喋らないヒロインという難しい設定を携帯電話のメール画面を用いることでクリアし、「歌に乗せれば自分の想いを伝えられる」というフックを加えることで、キャラクターたちがラストのミュージカル公演に向けて進み出す。順だけでなく、4人の心の叫びを体現する場がミュージカル公演で、当日に起こるベタなハプニングも含め、映画的カタルシスを堪能できる。
アニメファンや「あの花」ファンは間違いなく見にいって損はない映画だろう。アニメーションというジャンルに抵抗があったり、どこか恥ずかしくなるタイトルに足が向かない人たちにもおススメしたい。観れば自分の中の叫びたがっている何かをきっと発見するだろう。
野崎芳史
おススメ度☆☆☆☆