日本の鉄道旅客は年間236億人。朝のラッシュ時には、首都圏を1500本もの列車が1分と遅れずに走る。文句なしに世界一のシステムだが、いまこれが揺れている。ITで利便性が進む一方で、システムの脆弱性を浮彫りにするトラブルが立て続けに起こったからだ。
後手に回った架線切断や放火対策
8月4日夜(2015年)に起こったJR京浜東北線の架線切断事故は、復旧に翌朝までかかって、35万人に影響が出た。原因は運転士のミスだった。本来、停めてはいけない架線の継ぎ目(バリアセクション)に信号停止してしまい、発車の時にショートしたのだ。
最初の停止でATCは正しくバリアを避けるよう指示を出していたが、前方に電車がいたため、運転士は手動で停めた。バリアセクションで停まるとショートする危険があることを運転士は教えられていなかった。システムの導入は12年前だが、運転士には「ATC通りにしていればいい」としていた。JR東日本は「落とし穴、リスクを十分に洗い出しをしていなかった」という。
信号がダウンするなどで8万人に影響した連続放火事件は、悪意には無防備であることを証明した。犯人の42歳の男はJRに恨みを抱いて、山手線、中央線で電力ケーブルや通信ケーブルを焼いては犯行を伺わせる画像などをネットに投稿していた。鉄道設備の情報は本やネットで簡単に得られる。
JR東日本の運行は東京総合司令室が一元管理している。分刻みの緻密さも安全もITが頼りだ。信号を送る通信ケーブルは増加の一方で、線路脇に無造作に設置されている。やる気になればだれでも狙える。
8月下旬、東急電鉄で起こったトラブルは別の問題を突きつけた。トラブルははじめは東横線、多摩川線、目黒線の3線だけだったが、電車が停まったために、相互に乗り入れている地下鉄、西武線、東武戦も動けなくなった。最終的に15路線に及び、36万人の足が止まった。相互乗り入れは便利で快適だが、ひとたびトラブルを起こすと影響は広範囲に及び、回復にも時間がかかる。この事故も2時間後には運行が再開されたが、ダイヤの乱れは終日続いた。