改めて水害の怖さを思い知らされた鬼怒川の氾濫だったが、専門家は「同量程度の降雨があれば、日本にはまったく安全といえる河川はない」と断言する。全国1742市区町村で、この10年間(04~13年)に1度でも水害にあった自治体は96.8%にのぼる。首都圏低平地防災検討会の土屋信行座長は「明治以降、洪水が増えて対策を立ててきたが、全国各河川で対策が進んでいる部分は50%です。完全に対策が終了した河川は1本もありません」という。
では、水に弱いといわれる東京で荒川の堤防が決壊したらどうなるか。
江戸時代まで東京湾に流れ込んでいた利根川
荒川は氾濫の目安となる基準が3日間で550ミリ超の降雨だが、鬼怒川の上流の栃木・日光では24時間(9~10日)で550ミリだった。この降雨が東京だったら氾濫していた可能性があった。
都の推定では、北区で堤防が決壊した場合、荒川沿いの土地が低い北区、荒川区、江戸川区、中央区が浸水し死者3718人、浸水家屋21万114戸、浸水流域110平方キロ(山手線内側の1.5倍)が罹災する。銀座は水没、地下鉄は水の中だ。
とくに怖いのは、東京湾に接し、海抜ゼロメートル以下の地区が多い江戸川区だ。高潮と氾濫が重なれば水の深さは8メートルに達し逃げ場がない。江戸川区は氾濫が想定される8時間前までに、隣りの千葉・市川市や東京の高台地区へ避難してもらう計画という。
土屋座長は「東京はもともと水害に弱いんです」という。利根川の元の流れはもっと西寄りで東京湾に注いでいた。徳川幕府はそれを治水対策や東北地方の産品の海運を考え、60年かけて流れを東に変えて銚子港に注ぐようにした。「徳川の東遷」だ。「しかし、川筋は変えられても、地形は変えられません。今でも地下水は昔あった川筋を通って東京湾に流れています。氾濫があれば、水は先祖帰りで同様の水の流れになります」(土屋座長)