若者が声を上げやすい社会とはとてもいえないなかで、若者たちがいま次々と声をあげ始めている。ブラックバイトに立ち向かおうという「首都圏高校生ユニオン」、仲間たちと政治について考えたいと高校生が主体となった「T-ns SOWL」が8月(2015年)に相次ぎ結成され、東京・渋谷の街頭でビラを配ったり、国会周辺のデモに参加した。
「誰かが動き続けないと変わらない」
東京・表参道で8月、T-ns SOWLの呼びかけで6500人の若者が集まりデモを行った。T-ns SOWLの共同代表を務める「あいねさん」は高校2年の16歳だ。仲間とともに政治について考えたいと立ち上げた。
政治に関心を持ち始めたのは2年前、特定秘密保護法がニュースで話題になった時だった。しかし、学校でそうした話はできなかった。友人たちは政治に無関心、授業で政治が取り上げられることはなかったからだ。
そんな時にネットのSNSで大学生による抗議デモを知った。参加したいとメッセージを送ると、デモの主催者から「めちゃ嬉しい!まってまーす」と歓迎の答えが返ってきた。ところが、ネット上でその体験を呟くと「アホの行進、勉強しろとしか思わないね」という反応が返ってきた。「すごい驚いて、日本てこうなんだって思った。辛かったし誹謗中傷を浴びることで自分のやっていることが間違っていたのかなって」
それでも「あいねさん」は、自分たちで考え、声が上げられた場を大切にしようと考えた。さまざまな高校から集まった仲間たちも、やはり学校では政治や社会問題について語れないと聞いて、意を決した。「声を上げられない社会が今の社会を作り出している。誰かが動き続けないと変わらない」と言い切った。
都内の大学で法律を学び、裁判官を目指している浅野雄一郎さん(20)も、声を上げるべきか迷いながらも国会周辺の抗議デモに参加している。「自分の意見をここではっきり表明したい気持ちと、一方で将来不利益を被ったらいやだから発言するのを控えておこうかなという二つの葛藤でしたね」
不安の理由は就職に不利になるという噂だ。それでも行動することにしたのは、「不利益もあるかもしれないけど、勇気を出して自分の意見を表明したい気持ちが勝ったから」という。
「自分の将来」より「日本の将来」が心配
若者たちが積極的に声を上げ、行動し始めたのにはどんな動機、背景があるのか。電通総研の若者研究部が若者3000人を対象に行った調査によると、就職や結婚など「自分の将来が不安」(64%)より政治や経済など「日本の将来が不安」(77%)という答えが多かった。
ゲストにAKB48の総監督として300人以上のリーダーを務める高橋みなみさん、若者のフィールドワークを続ける社会学者の開沼博さん(福島うつくしまふくしま未来支援センター特任教授)が出演した。
国谷裕子キャスター「自分の将来の不安より日本の将来への不安が大きいと出ていましたが、どのような実感をおもちですか」
高橋さん「どういうふうに日本がなっていくのか。50代、60代になった時に、戦争は起きていないのか、年金はもらえるのだろうか、やっぱり不安はありますね」
開沼さん「今の若者が抱える課題は、かつての若者とは若干変質していると思います。いろんな意識調査がありますが、今の若者の方が『幸せ』という結果が出ています。しかし、今は幸せだが、将来に希望が持てるかというと、逆になっているんです。昔は将来に希望があったが、今は将来に希望が持てない。社会の役に立ちたいは自分にある程度の余裕がないとできません。日本が成熟した結果として、社会にコミットしたいという声が出てきたのだと思います」
国谷「若者たちはどのくらいの切実感で声を上げていると感じますか」
開沼さんは次のように答えた。「かつてだったら会社に入ると労働組合とか、地域の問題なら自治会とか、社会学でいう中間手段がありましたが、これがつぶれてしまっています。多くの人が自分の声をどう社会に届けるか困っている。媒介になるようなものがなくなっているなかで、思いを伝えたいという切実さは深まっていくと思います」 来年の参院選から選挙権が18歳に引き下げられる。開沼氏は大人たちも若者が社会や政治に対し意見を出して議論できる場を作っていくよう支援することも大事だと指摘する。
モンブラン