今国会で日本の司法、捜査を大きく変える「司法取引」を含む司法制度改革法案が審議されている。司法取引は容疑者が他人の犯罪についての情報を提供する見返りに、起訴を見送る、求刑を軽くするなど罪が軽くなる制度だ。暴力団、詐欺グループ、企業、役所など、摘発がむずかしい組織・企業犯罪の情報を得やすくなると見られている。
元検事の落合洋司弁護士は「供述を得て犯罪を解明していく上で、司法取引はかなり大きな武器になり、効果が期待できる」と話す。一橋大学法科大学院の青木孝之教授も「正しく運用すれば、的確に犯罪を解明して検挙、処罰していける」という。
アメリカではウソの情報で冤罪多発
しかし、司法取引がいち早く導入されたアメリカでは、いかに供述の信用性を確保するかという問題に直面している。司法取引による不正(捜査側が正当な条件や手続きを経ないなど)や虚偽の供述によるえん罪が相次ぎ、重大なえん罪事件の20%が司法取引によるものだとする研究者の調査もある。
そこで重視されるようになったのが「記録」だ。捜査側は取り引きの過程をすべて録画・録音し、検察側に不利な内容も含めて全面的に開示する取り組みを進めてる。「司法取引の過程をすべて記録していれば、裁判になったときに信頼できるものかどうか、記録に基づいて厳しく検証できる」とロヨラ法科大学院のアレクサンドラ・ナタポフ教授は話している。
日本では法案の付帯決議で、記録を作成することになったが、「最低限の要請が付されただけであって、十分とは言えない」(青木教授)。というのも、作成される記録はリアルタイムの録音・録画などではなく、「(取引の)協議が終わったら業務報告書のような形でペーパーにまとめておく」という形のためだ。また、保管期間は「公判終了まで」となっている。えん罪による再審などを考えれば、もっと長期間の保存が不可欠だ。