「金は要らない。酒をもってこい」
さらに番組にとってつらいのは、緊迫の映像はあるのだが情報がない。しかし、進行中の事件の生中継だから伝え続けなければならない。スタジオはああだこうだと推理をならべて時間をかせぐ。記者が新しい情報を細切れにいれる。わかったのは、男は押し入ったとき「金は要らない。酒をもってこい」といっていたこと、30歳くらいで身長は170~180センチ、タオルを顔に巻いていて、人質の店員は28歳ということぐらいだ。
ここらが潮時だった。「酒をもってこい」と言っているなら、酔っぱらいかラリッてるか、どのみち大した事件じゃない。いったん中継を切って、「新しい情報が入り次第」とやるタイミングをのがしてしまって、結局26分間放送し続けた。
そして1時間ほど経ったとき、続報で犯人が「鈴木」という男だと伝えた。
文
ヤンヤン| 似顔絵 池田マコト