「あなたはきっと涙する」というのがキャッチコピー。人は「泣きたいために」映画を観にいくことが多い。「泣く」というのは一つの快感だ。「私が私でいられる最期の夏」というフレーズも、見事な表現!詩(ポエム)だ。ともあれ「上質な映画を見る心地の良さを満喫できた。
自分あてに書いたメール「自殺のすすめ」
アリスは50歳。コロンビア大学の言語学の教授(専攻が言語学の人が言語を失っていくというのが皮肉)だ。優しく有能な夫と幸せな結婚をした長女、将来有望な医学院生の長男に囲まれた幸せな生活をおくっている。唯一気がかりなのは女優志望のフリーターの次女リディアの存在だ。
そんなアリスはジョギングをしていて自分が今どこにいるのかが分からなくなる。大学の講義をしていて語彙が浮かばなくなる。彼女は医師の診察を受けることに。診断の結果、稀な「家族性アルツハイマー病」であることを告げられる。「若年性」でしかも「遺伝性」である。アリスの父も母もその症状があった。自分の子どもにも伝わるかもしれないと、息子・娘二人に検査をさせる。長男は「陰性」だが、長女が「陽性」だった。長女は出産を控えていたのだ。アリスは心を痛める。次女は検査を拒否した。アルツハイマーは現在の医学では進行を遅らせることはできても完治することはできない。
「症状」は日々露わになっていく。訪ねてきた娘の友人にさっき「初めまして」と言ったことを忘れて、また「初めまして」と言ってしまう。得意だったパンケーキの作り方を忘れてしまう。長女の名前・アナをアンと言い間違える。
遂にはジョギングの前にトイレに行こうとして、いろんな部屋のドアを開け、トイレにたどり着けず失禁してしまう。若くて知性的な人ほど進行が早いという。アリスは症状の進行を自ら確認するためにスマホの「言語ゲーム」に繰り返しトライする。そのゲームによって症状の「進行」の度合いが示される。アリスは学生たちの彼女の講義への苦情が殺到し、大学を辞めざるをえなくなる。
ある日、アリスは偶然あるメールのファイルを開いてしまう。
「アリス、私はあなたよ、大事な話があるの。もし何も思い出せなくなったら、今から言う通りやるのよ。2階の戸棚の奥に薬のビンがあるわ。量が多いけど全部飲むのよ。それから静かにベッドに横になるの」
それは自殺することさえできなくなってしまうかもしれない自分に、己の尊厳を保つため自殺を指示するかつて自分に送った動画であった。アリスはその戸棚が見当たらず、ノートパソコンを手に階段を何度も行き来する。鬼気迫るシーンだ。そして、ついに薬のビンを手に取るのだが・・・。ここらへんはサスペンスに満ちている。