イギリスの「サンデー・タイムズ」などが伝えたドーピングのニュースが、世界の陸上界を揺るがしている。2001年から12年までの世界選手権とオリンピックの中長距離種目で、146個のメダル獲得者にドーピングの疑いがあるという。金メダル55個が含まれている。146個は全メダルの3分の1にあたる。
国際陸連が約5000人から採取し、管理していた約1万2000件の血液データが内部告発で漏れ、専門家による再調査で、800メートルからマラソンなど持久系種目の800人以上に異常な値がみつかった――と記事は伝えている。国別ではロシアのメダリストが多く、日本の調査データでも5%が疑わしいとされている。
中長距離選手の「自己血液再輸血」
陸上ハードルで五輪3大会出場の為末大さんは「ちょっと信じ難いけど、本当だったらショック」とツイッターした。また、シンクロナイズド・スイミングで北京大会5位入賞の青木愛さんは「ドーピングに関してきちんとしている選手からすれば、いったいなんなんだと思うだろうな」とコメントした。
筑波大の渡部厚一准教授によると、ドーピングは尿と血液の検査で行われる。抜き打ちでおこなわれ、検査官はトイレの中にまで一緒に入って監視、検体は他人の手に触れないよう密封され、検査に回されるという。
この検査でメダルを剥奪された選手は多い。1988年のソウル五輪では陸上の男子100メートルで世界記録で勝ったベン・ジョンソン(カナダ)。2000年シドニー五輪の陸上女子で金3つ、銅2つのマリオン・ジョーンズ(ジャマイカ)は、07年に自ら使用を認めてメダル剥奪、記録抹消などの処分を受けた。いずれも短距離選手で、筋肉増強剤だった。
筋肉増強剤やホルモン剤は尿検査で検出できる。今回言われるのは「血液ドーピング」だ。あらかじめ採取しておいた自分の血液をレース直前に自己輸血して赤血球を増やすものだ。持久力が必要な中長距離の競技に有効とされる。むろん禁止行為だ。
国際オリンピック委員会「再調査する」
報道があったとき、クアラルンプールで国際オリンピック委員会(IOC)の総会が開かれていた。世界アンチ・ドーピング機関のリーディ会長は「再調査をする必要がある」といい、IOCのバッハ会長は「調査結果を待って判断する」。国際陸連のディアック会長は「証拠はない。われわれが真剣に検査しなかったなどというのはバカげている」と反論したが、再調査は行うといった。
ただ、血液ドーピングを見極めるには、普段の赤血球量との違いを相対的に見ないといけないわけで、はたして過去のデータだけで判定できるものなのかどうか。
ロバート・キャンベル(東京大教授)「サンデー・タイムズの記事を読みましたが、サンプルを新たに検査したのかとか、そのあたりを明らかにしていないんです。報道にもけっこう疑問が残りますね」
上重聡アナ「もし本当なら、ちゃんとやっていた選手はなんなんだとなりますよね」
今月(2015年8月)は北京で世界陸上がある。いっそう厳しい視線が注がれるのだろう。