高校の中で影の薄い古賀(清水尚弥)と副島(村上穂乃佳)は、半ば強制的に学級委員に選出される。ある日、いつものようにクラスメイトからいじめを受けていた古賀を副島がかばったことで、今度は副島がいじめの標的にされてしまう。
古賀は担任から不登校になってしまった副島の家へ授業のプリントを届ける役目を与えられ、何度か通うことで次第に彼女に思いを抱くようになる。二人は手紙をやりとりしていたが、いじめ生徒に手紙を奪われてしまう。生れて初めて抱いた恋愛感情をズタズタにされ、怒りを覚えた古賀はある決意をする。
群馬県の伊参スタジオ映画祭シナリオ大賞2012の大賞に選ばれた飯塚俊光の脚本を、飯塚自らが映画化し、PPFアワード2014のエンタテイメント賞を受賞した。
無器用で淡い恋ズタズタにされ決起
古賀と副島が互いの趣味の話などをしながら打ち解けていく前半部分の空気感の甘酸っぱさが良い。連絡事項がないと副島の家へ行く口実がない古賀が、担任に連絡する事はないかと確認をする場面など、とにかく微笑ましいのだ。古賀を演じた清水尚弥の男性ホルモンが欠除したような雰囲気は印象深い。
79分という短い尺だが、起承転結が明確で、「転」の部分がユニークだ。怪優として人気を博している芹澤経興人が演じる黒柳という人物が正義の味方のような存在として登場し、古賀をいじめ側に立ち向かわせようと特訓をする。実は黒柳は男子児童にワイセツ行為を繰り返す変態で、古賀にこんなことを言う。
「人生はどう踊るかだろ?」「劇的にいこうぜ」
器用なシナリオの中で「浮いている台詞」なのが面白い。飯塚監督がどうしても言わせたかったことで、自意識に溺れぬようドラマを紡ぎ出し、添削を繰り返し、それでも言いたいこと言わせるための黒柳というキャラクターに、飯塚監督の止むに止まれぬ映画への思いが見える。
現状を打破するべく決起した古賀、不登校から一歩踏み出せない副島、その性癖により社会に適合できない黒柳。彼らに何が待ち受けるのか。圧倒的多数の票を集め学級委員という『独裁者』になった一人の高校生を通して描いた「通過儀礼」の眩さは、みぞおちに鉛が入ったような「あの痛み」を蘇らせる。
丸輪 太郎
おススメ度☆☆☆