<アルジャーノンに花束を>(TBS系)
野島伸司もう終わったね!思わず吹き出した陳腐なラスト・・・ダニエル・キイスの名作ズタズタやめてくれ

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   終わったドラマで恐縮だが、終わりがどうもすっきりしなかったので、ちょっと言わせていただきます。

   28歳だが6歳児程度の知能の白鳥咲人(山下智久)が、最先端の脳外科手術を受けて知能が劇的に向上し、知識を得る喜びや楽しみを知った。しかし、同時にこれまで友達だと信じていた周りの仲間が自分を馬鹿にしていたこと、母親から捨てられたことなど、知りたくない事実に直面する。そんな咲人と周りの人との交流を描いていた。

   読んだ人も多いであろう、ダニエル・キイスによる同名のベストセラー小説が原作だ。キイスがこの小説を出版前に見せた友人(彼も作家である)は、「これはまちがいなく古典になる」と言ったそうである。昔読んだ記憶によると、たしか一人称で書かれていた。主人公の知能の変化にしたがって、ひらがなばかりの子供っぽい文章が次第に高度になり、そしてまた後退して元に戻り、やがて白紙になっていたような気がする。読みながら、つらくてたまらない気持ちになったのを思い出した。

   独白だけで客観的状況がいっさい書かれていないこの原作をどうやってドラマとして視覚化するのだろう、でも野島伸司(脚本監修)のことだからなんとかするんだろうなあと思った。野島は「原作の読後感が悲しいので、違うラストにしたい」という構想を語ったと聞いて、なんだか嫌な予感がした。

難しい役ていねいに演じた山下智久、芸達者の脇役たちがもったいない

   予感は的中した。最終回を見終わった感想は「なんじゃ、こりゃ」。前半は悪くはなかった。難しい役だろうに、山下くんは知的障害者である咲人を丁寧に演じていて、「ボクがお利口になったらママが喜んでくれる。ボク、お利口になりたい」と無邪気に言う場面、職場の同僚に「対等な友達になりたい」と泣く場面など、毎回、こっちも泣きながら見ていたほどだ。

   咲人の友人役の窪田正孝、工藤阿須加も、年相応の不器用さとまっすぐさが感じられ、好感が持てた。3人がケンカするシーンの窪田の演技は目を見張るものがあった。思わず2度見してしまった。

   だが、咲人が手術を受けて天才になった後の切ない展開になるところから、脚本が驚くほどごちゃごちゃになった。咲人と母親(草刈民代)の関係、女友達(谷村美月)の不治の病、3組の男女の恋愛模様、咲人の父親(いしだ壱成)と職場の社長(萩原聖人)の過去・・・と、とにかくエピソードが多すぎて、まとめるのに大わらわという感じになってしまった。

   話を膨らませたかったのだろうけれど、肝心の咲人の喜怒哀楽がちっとも見えてこず、時おり幻覚として現れるいしだ壱成の薄ぼんやりした表情と後退気味の生え際ばかりが目につく。この幻覚パパ、咲人の知能の後退が進むにつれて頻繁に出現し、最終回には大増殖! 申し訳ないが吹いてしまった。

   咲人の恋人・望月遥香が、演じる栗山千明がかわいそうになるぐらい魅力のない人物だ。天才と謳われる蜂須賀教授(石丸幹二)のもとで脳生理学を研究する研究員で、最初はモジャモジャ頭の蜂須賀に惹かれ、咲人の気持ちを持て余し気味だったくせに、咲人の知能が高まった途端、あっさり「あなたを愛してる」とか言ってしまう。

   その遥香の愛情が支えとなって、咲人はその後の人生を生きていけるという設定なのだが、そりゃあ、山Pみたいなイケメンが天才になったら、モジャモジャ頭のおじさんよりかっこよく見えるでしょうよ。しかも二人で無責任に仕事を辞めてラブラブショッピング、時計をプレゼントし合ってニヤニヤする始末だ(トホホ)。

あざとさ、安っぽい結末、ご都合主義・・・20年前の野島ドラマそのまま

   野島が目指したハッピーなラストも、知能が元に戻ってしまった咲人と、友人2人がアルジャーノン(実験に使われたハツカネズミ)のお墓の前で再会し、3人でハンバーガー屋を始めるという大急ぎで作ったような仕上がりである。あざとさ、安っぽい結末、不治の病がパッと治るご都合主義など、どれも野島ドラマの真骨頂に思え、既視感あって食傷気味。ここぞという場面で大音量で流れる名曲「ローズ」(ベット・ミドラー)も、好きだったのに、危うく嫌いになりかけてしまったぞ。

   野島ドラマが人気だった時代(1995年あたりか)と違って、今の視聴者はテレビドラマの結末について議論するほど暇じゃないし、衝撃的なもの、残酷なものを見せれば深いドラマだと思うほど単純でもない。

   古典はやっぱり改ざんしてはいけません。悲しくとも原作どおりのラストにしていれば、いや少なくとも「知性が幸せをもたらすか」というテーマに忠実にストーリーを運べば、窪田正孝、谷村美月、石丸幹二など芸達者を集めたのだから、心に響くドラマになったはず。残念だ。

文   カモノ・ハシ
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