18年前、神戸で連続児童殺傷した「少年A」、自称・酒鬼薔薇聖斗が出版した手記「絶歌」(太田出版)は、街ではどう受け止められているのか。東京・新橋駅前では「知りたくもない。その前に償え」(40代女性)、「読みたくない」(60代男性)など年齢が高いと否定的だ。だが、若い世代になると、「少し興味あります。どうしてそんな殺人をしたのか」(20代女性)、「知らない人もいるので、知る機会になる」(20代女性)、「興味はあります。読んでみたい」(男性)と声が増える。
自己弁護とナルシズム
手記はどんな内容はなのか。「誰にも打ち明けることができず、二十年以上ものあいだ心の金庫に仕舞い込んできた自らの『原罪』ともいえる体験を、あなたに語ろうと思う」
大人になったいまの僕――「もし十代の少年に『どうして人を殺してはいけないのですか?』と問われたら、ただこうとしかいえない。『どうしていけないのかは、わかりません。でも絶対に、絶対にしないでください。もしやったら、あなたが想像しているよりもずっと、あなた自身が苦しむことになるから』」
謝罪もある。「本を書けば、さらに傷つけ苦しめることになってしまう。わかっていながら、どうしても書かずにはいられませんでした。身勝手すぎると思います。本当に申し訳ありません」
「原罪」「あなた自身が苦しむ」「書かずにいられない」とは、あくまで自己中心だ。他者への思いやりはない。謝罪にもなっていない。要するに変わっていないのだろう。そしていま少なくとも自由がある。
司会の小倉智昭「読んだ後味が本当に悪くて、読まなければ良かったと思ったんですが」
中瀬ゆかり(「新潮社」出版部長)「そうですね。自己弁護とナルシズムに満ちていて、謝罪もしてるんだが、本筋をそれて自己陶酔にひたっている」
オーストラリア政府は法律を改正して印税を寄付
ショーン・マクアードル川上(経営コンサルタント)「アメリカでは過去の犯罪者がこうしたメモワールの類いを出して得た利益は被害者に返すという考えになっています」
過去に例はいくらでもある。1969年の連続殺人のチャールズ・マンソンは「生きている最も危険な男」。69年に詐欺などに問われたフランク・アバグネイルは「Catch Me If You Can」を出して53万部を売り上げた。デカプリオ主演で同名の映画(02年)にもなり、舞台(11年)にもなった。
80年代に強盗・殺人などを犯したマーク・リードは「チョッパー、獄中から」が10万部。ただ、オーストラリア政府は法律を改正して、 印税を寄付させている。
小倉「元少年は30過ぎてる。自分の責任で本を書くんであれば、実名で書けばいい」
この点については、紀藤正樹弁護士がブログに「少年時代の犯罪で、将来の更生のために与えられていた『少年A』という『匿名』特権も許されることはないでしょう」と書いている。