スーパーマーケットの店頭からバターが消えた。国内の畜産農家を直撃している円安によるエサ代の高騰が原因の一つというが、供給構造にも問題がありそうだ。バターの原料となる生乳の生産者団体でつくる「Jミルク」によると、今年度の需要見通し7万5000トンに対して、生産量は6万5000トンとまったく足りない。農林水産省は昨年末(2014年)のバター不足の際に取られた輸入バターを今年はさらに追加する。
ケーキ屋さん「別に困ってない。いつも通りの量確保できる」
東京都内のスーパーをのぞくと、まれに「1人1個」なんて表示もあるが、多くは棚からバターは消えていた。買い物に来た主婦は「困りますね。バターはいろいろな料理に使いますからね」と困惑の表情だ。
ところが、バターを大量に使う洋菓子店に聞くと、家庭用ほど深刻なバター不足ではないようだ。「昨年のバターの使用量をもとに、事前にメーカーに同量を納品してもらうようにしている」と話している。
なぜ洋菓子店はバターを入手できるのか。国内で生産される生乳は牛乳に優先的に使われ、バターは後回しとなるためバター不足が起こる。輸入バターで補うわけだが、その輸入バターは消費期限の長い冷凍の業務用バターのみだという。農水省は業務用バターの追加輸入で国内の生乳を家庭用バターに回して不足解消を図ろうとしているが、それがうまく回っていない。
TPPで国内酪農家いなくなる?
農水省系の「農畜産業振興機構」が輸入バターの数量について権限を独占しているうえ、輸入バターの関税は一定数量まで高い一次税率(35%)を課し、その枠を超えてもさらに2次税率(29.8%+179円)を課すという不可思議な構造になっている。
コメンテーターの宮崎哲弥(評論家)「酪農の未来を考える非常に象徴的な問題ですよ。TPP交渉次第では酪農に参入する人が少なくなるし、場合によってはほとんど輸入品になってしまう」
円安によるエサ代高騰で廃業する酪農業者が増えているが、飼料を輸入に頼っている現状ではそうした選択もやむを得ないが、構造上の問題も無視できない。それでも消費者に供給できないなら、家庭用バターを輸入自由化し関税ゼロにするのも仕方がなかろう。