噴火警戒レベルが2に引き上げられた神奈川県・箱根山で水蒸気噴火が起こる兆しが出ているという。地下は現在どういう状態か。温泉を供給する設備からこれまでになく激しく蒸気が噴き出す「暴噴」が起きていて、その勢いは制御できない状態になっている。
また、箱根山の火山活動を監視している神奈川県温泉地学研究所が地下に設置した14の地震計のデータをもとに、NHKがいつどこで地震が発生したか3次元で映像化して分析したところ、4月26日(2015年)から始まった地震は3週間で3000回以上に達していた。
火山ガスも増加
研究所が注目したのは震源の深さだ。ほとんどが6キロの地下で起きている。箱根山のマグマ溜りは地中10キロ以上深いところにあると考えられているが、今回はマグマ溜りに近いところで大きな地震が起きていない。萬年一剛主任研究員は「マグマが上昇してくればもっと大きな地震が起こる。すごい大きな噴火があるとは考えにくいです」と見る。ただ、小規模の水蒸気噴火が起こる兆しが見えており安心はできない。
地震が始まった当初、地震の分布は柱上に限られた場所だったが、次第に範囲を広げてきており、マグマ溜りに新たなマグマが加わり、上昇する火山ガスによって広い範囲で岩盤に圧力がかかり地震が起きていると考えられている。
火山ガスが増えていることは地表でも観測されている。噴出した蒸気を採取し液体に溶かすと、日増しに黄色が濃くなっている。火山ガス特有のイオウの成分が増加しているためで、それを証明するように火山ガスによるとみられる地震も増えているという。2001年の群発地震と比較すると、今回の発生件数は3週間目で6倍以上、マグネチュード2以上の比較的規模の大きい地震も5倍に達している。
大噴火のとき温泉客は逃げられるか
火山のメカニズムに詳しい火山予知連絡会の藤井敏嗣会長(東大名誉教授)はいま地下で起きている状態を次のように語った。「地下のマグマ溜りからマグマと同じ高温の個体でもない液体でもない一種の流体が上がってきていて、量が増えています。それが上ってきて地下水と混ざって熱水が作られ、その圧力で地震が起きていると考えています。このままいくと熱水が瞬間的に水蒸気に変わって水蒸気噴火を起こすことが考えられますね」
「もう一つは、しばらく地震活動が続いた後、2001年と同じように収束する可能性もあります。ただ、今回は早い時期から地震が増えていることから、2001年とは様子が違います」
現在、箱根山と同様に火口周辺警報が出されている活火山は13か所ある。死者・行方不明者63人を出した御嶽山、21年ぶりにマグマ噴火をした阿蘇山、警報が出されている山形・宮城県境の蔵王山、さらに今年に入って500回を超える噴火が起きている鹿児島・桜島は要注意だ(桜島は21日に噴火した)。
火山活動が活発化している地域は温泉が湧く観光地が多いが、ひとたび噴火が起きれば観光客や住民の生命・生活に深刻な影響をもたらす。ふもとの温泉街では観光客や住民の安全をどう守ろうとしているのか。「クローズアップ現代」が全国47火山のふもとの自治体130か所にアンケート調査したところ、避難計画を定めている自治体は14か所と1割でしかなかった。
これでは自ら身を守るしかない。火山予知連絡会の藤井会長は「まず火山のことをよく知ることが大事。噴火した時に何が起きるか。分かっていれば身を守る行動がとれるのです。火山を知る努力をしてほしい」と強調している。
モンブラン
*NHKクローズアップ現代(2015年5月20日放送「活発化する火山『共生』への模索」)