女性警察官のヨンナムはソウルから港町の派出所へ左遷され、そこで母親に捨てられ義父と義理の祖母から虐待を受けている少女ドヒと出会う。ヨンナムはドヒを救い出そうとするが、自分の秘密が世間に晒され窮地に陥ってしまう。ドヒはヨンナムを助けようと思いもよらぬ「決断」をする。
ヨンナム役にはペ・ドゥナ(『空気人形』)、ドヒ役にはキム・セロン(『アジョシ』)が抜擢された。脚本・監督は本作が長編デビュー作となるチョン・ジュリ。
透き通るようなペ・ドゥナとキム・セロン
上昇と降下を巧みに使い分ける脚本に舌を巻く。虐待というアクションは表象に過ぎない。血縁関係がなければ虐待を黙認する韓国社会の閉鎖された「空気」がテーマであり、監督の主張だ。韓国は先進国だが、人々の感覚には古いままのところがあることを映画の中で示している。
ペ・ドゥナとキム・セロンがただただ素晴らしい。二人の役者の透き通るような存在感が韓国社会の重たい闇に、恍惚なる光を与えていく様と、役者の存在感が作品の「救い」となる飛躍が余りに美しい。また、この二人のスクリーンに投影される甘美な響きが、ヨンナムが左遷された理由に繋がる形式と内容の一致はデビュー作とは思えない完成度だ。
チョン監督は、自身の内なる祖国をすべて作品に注ぎ込んだのだろう。2作目のことなど考えていないのかもしれない。女性監督の止むに止まれぬ思いによって暴かれた韓国の実像の暗さと、スクリーンに映る美しさの矛盾が、説明できない美しさを放つ。
丸輪太郎
おススメ度☆☆☆☆