俳優リーガン・トムソン(マイケル・キートン)は「バードマン」シリーズというハリウッド映画で一斉を風靡したが、20年がたち、いまはすっかり落ちぶれ、家庭も上手くいっていない。そんな彼が再起をかけて今度はブロードウェイにやってくる。俳優になるきっかけになったレイモンド・カーヴァーの短編小説「愛について語るときに我々の語ること」の舞台演出と主演を務めることになったのだ。しかし、待っていたのは新たな挫折だった。本年度アカデミー賞で主要4部門を受賞した。監督は『バベル』のアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ、主演はマイケル・キートン。
「バットマン」初代主演マイケル・キートンが等身大で熱演
かつての栄光を知るファンからもリーガンは「バードマンの人」と呼ばれ、ほとんどの人はすっかり忘れてしまった。不安を募らせるようなドラムロールが延々と流れ、リーガンの背中をカメラが追う。暗くて切なくて、ひどい臭いのするリーガンの楽屋の中にいるような気分になってくる。煽るように聞こえるのは、リーガンの前に現れる「バードマンの声」だ。幻聴なのか本物なのか。「お前はこんなところにいる人間じゃない」と華やかな時代へ引き戻そうとしている。
もういちど輝くために、ハリウッドで得たものすべてを捨てゼロからスタートしようとするが、資金繰りは苦しく、脚本や演技もダメ出しの連続だ。付き人の娘・サムにさえ「父さんは『バードマン3』で終わった」と罵られる始末である。
若手俳優マイクを迎えたが、その実力に怯えている。マイク役を演じるエドワード・ノートンは、「ファイトクラブ」の不眠症のサラリーマン、「インクレディブル・ハルク」のハルクなど、演技には定評がある。この映画では「リアリティがない舞台なんてダメだ」と、舞台でセックスすることも厭わない滅茶苦茶な男を演じている。そんな熱い思いがリーガンの甘えを浮き彫りにするが、リーガンが犯した間違いによって傷ついたサムの心を、そっと理解するところには心を打たれてしまった。
マイケル・キートンは「バットマン」の初代主人公ブルース・ウェイン役で、俳優として人気を不動のものにした。そして今、もがき苦しみ、それでも輝きたいと不器用に生きる俳優を等身大で演じている。それが最大の見どころといっていい。
PEKO
オススメ度☆☆☆