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舞台はサッチャー政権下の1980年代のイギリス。ストライキを続ける炭鉱労働者に心を動かされたゲイのマーク(ベン・シュネッツァー)は彼らを助けるために支援団体「LGSM」(Lesbians & Gays Support Miners)を設立する。しかし、ゲイの支援を受け入れる炭鉱組合などひとつもなかった。ある時、勘違いからウェールズの炭坑が寄付の受け入れを決めたことから事態は変化していく。
マッチョな炭鉱労働者と同性愛者という相容れない「交流」をマシュー・ウォーチャス監督が80年代のヒットナンバーに乗せユーモアたっぷりに描く。
同じ人間だからと簡単に手を取り合うほど人は単純ではない。マジョリティはマイノリティを簡単には受け入れない。マイノリティ同士の中での争いごともある。ゲイだって一枚岩で連帯しているわけではない。「偏見のない世界へ」などと口走るおとぎ話ではないし、メッセージ性もない。あるのは娯楽だけだ。ゲイやレズビアン映画として敬遠してしまうのはもったいない。
同性愛キモイの人にこそ見てほしい
どこへ行っても「変態!」と罵声を浴びせられるマークやLGSMの面々は、差別されようが苦境に立たされようが悲観しない。常に彼らにあるのはユーモアだ。それは処世術でもある。自分たちが「特別」であることをポジティブに捉え、自分で自分を笑うことによって人から笑われる免疫を付けていくのだ。
シリアスなことがひと言のスパイスで笑いに変化することも彼らはよく知っている。それは傷ついてきた人にしか分からない「優しさ」であり、「かなしさ」であるのだろう。
とにかく彼らは笑い、人を笑わせる。知的な笑いから下品な下ネタまでなんでもありだ。彼らのユーモアが人々の「気持ち悪い」を「おもしろい」に変化させ、距離を縮めていく過程をコミカルに描く演出に拍手を送りたい。
「いいもの」を見る気持ちでこの映画を観てはいけない。むしろ同性愛者に偏見を持つ人こそ楽しめるはずだ。そして彼らを思いっきり笑えばいい。キモイと言えばいい。自分とは違うと悦に入ればいい。エンドロールの意外性に驚けばいい。彼らほどの自尊心(原題は「Pride」)が自分にはないのだと自覚などしなくてよい。
所詮、映画は娯楽だ。エンタメだ。笑えばいい。とはいえ、こんなに真面目な映画は久方ぶりに見た。
丸輪 太郎
おススメ度☆☆☆☆