振り込め詐欺など「特殊詐欺」の被害額が昨年(2014年)は559億円と最悪となった。この5年で件数は2倍、被害額は5倍近くだ。「クローズアップ現代」はこれまで伝えられることがなかった被害者の苦悩を取材した。被害を苦に、自殺した人も1人や2人ではなかった。
番組のきっかけとなったのは、250万円の被害にあった70代の女性からの手紙だった。「1人になると、いまも震えが止まらない」「自分なら警察に通報できると思っていた」「犯人のスキのない言葉に、小さな子どもを守る母親のようになった」などとあった。
手がかりの少ないなかで50人と接触、苦しい胸の内を聞いた。「他人の目が怖い」「外出できなくなった」「死のうと思った」「息子に責められた」...浮かび上がったのは、社会や家族からも孤立し傷を深める姿だった。
責められるばかりで「慰めてくれる人はだれもいなかった」
千葉の礼子さん(仮名 70代)は2年前に200万円の被害にあった。長男を名乗る声が「会社の小切手をなくした。助けて」といった。声はそっくり。「息子だと思いました。元気がない。相当落ち込んでいるなと。助けたい一心でした」
そして長男の部下を名乗る男に金を渡してしまった。「なぜ見抜けなかったのか。くやしい。夜も眠れないです」。憤りは犯人にではなく、自分に向かった。日記には「まんまと引っかかった」「私の愚かさから出たこと」「情けない」と自分を責める言葉が続く。
愛知の80代の女性は3年前に200万円をだまし取られた。気さくで初対面の人と も話ができ、友だちも多かった。息子にその性格を責められた。「グサッときた」「慰めてくれる人はだれもいなかった」という。不眠になり食事もとれなくなったが、息子に相談もできない。「本人はつらいです」
千葉・成田の寺の住職、篠原鋭一さんは詐欺被害を苦に自死した人の葬儀、法要をたびたびしている。自殺した人の遺族の相談が昨年だけで20件あった。聞きとったメモには「家族もボクも祖母を責めた」「孤立感を抱かせてしまった」と自責の言葉が並ぶ。「詐欺の延長上に自殺がある。間接的な殺人じゃないですか」
千葉・柏市は老人会で相談「閉じこもったらダメ」「親しくしてれば話せる」
特殊詐欺にくわしい国士館大の辰野文理教授も「(被害者の実態は)初めて知った」という。被害者が語りたがらないのは、話に乗ってしまった自分を責め、世間には「だまされる方が悪い」という冷たい目があるからだ。どうしたら被害者の苦しみを和らげることができるか。
前出の礼子さんを救ったのは次男だった。落ち込んだ母の姿に犯人への怒りをブログに綴った。すると、母親に同情する書き込みが寄せられるようになった。次男はそれを母に見せた。「話す機会が増え、恥ずかしいことではないと思うようになりました」と礼子さんはいう。今では近所の人にも語れるようになり、かつての明るさを取り戻した。「話を聞いてくれるだけで気持ちが軽くなる。しゃべれてよかった」
千葉・柏市は詐欺被害者を孤立させない道を模索している。アンケートを6000枚送り3200枚を回収した。注目したのは詐欺にあっていない人たちの記述だった。「あれだけ報道されて、だまされるのが不思議」「だまされる人がバカだ」「馬鹿の一言!」...被害者の実態と大きなギャップがあった。
柏市は「意識を変える必要がある」と考え、老人会の場で議論にのせた。否定的な声もあったが、「声を上げやすい環境を作ったら」「閉じこもったらダメ」「親しくしてれば話せる」と前向きの声があった。市は老人会が相談の場にならないかと考えている。
特殊詐欺の手口は巧妙を極める。被害者は毎年延べ1万数千人。届け出のない被害はその数倍という恐ろしい推計もあるらしい。行政や報道の目が犯罪をどう防ぐかに向くのは無理はない。そこを「被害者」に目を向けたこの番組、さらに柏市が動いていたとは。「おぬしやるな」といってやりたくなる。
ヤンヤン
*NHKクローズアップ現代(2015年2月19日放送「詐欺被害者 閉ざされた苦悩」)